2025年1月26日日曜日

次の投稿 › ‹  前の投稿

北海道のアイヌ語地名 (1206) 「紋別・インダタラ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

紋別(もんべつ)

mo-pet
穏やかな・川
(記録あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
大樹町と広尾町の境界を「紋別川」が流れていて、紋別川の南側が広尾町紋別です。十勝バス広尾線に「紋別入口」というバス停があったのですが、twitter で「紋別市と間違えて来てしまった」という tweet が話題になった後、いつの間にか名前が変更されてしまいました。

陸軍図では紋別川の北、かつて国鉄広尾線の「石坂駅」があったあたりが「紋別」となっています。「石坂」という地名は開拓功労者の石坂善七を記念して名付けられたとのこと。このあたりは歴舟川とともに砂金が採れたことで知られ、明治時代は大樹の中心部よりも栄えていたのだそうです。

東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「モンヘツ」という川が描かれています。『北海道実測切図』(1895 頃) にも「モンペッ」とあり、アルファベットでは Mompet と描かれています。

『東蝦夷日誌』(1863-1867) には次のように記されていました。

モンベツ〔紋別〕(川幅六間)遲流の義なり(川番ウサメウチ申口)。
松浦武四郎・著、吉田常吉・編『新版 蝦夷日誌(上)』時事通信社 p.272 より引用)
また『十勝地名解』(1914) には次のように記されていました。

モン・ベツ
  流の静なる川との義なり。胆振国紋鼈、北見国紋別、日高国捫別、皆同じ。
(井上寿・編著『十勝アイヌ語地名解』十勝地方史研究所(帯広) p.99 より引用)
両者は差異があるように感じられるかもしれませんが、本質的には同一で、mo-pet で「静かな・川」と見て良いかと思われます。この「静かな」という解釈には含意があり、「静か」は「荒れることが無い」(=「穏やか」)、あるいは「病気が少ない」(=「病魔が荒れない」)などを意味する場合があるとのこと。「静かな川」とするよりは「穏やかな川」としたほうが良いかもしれませんね。

インダタラ川

e-en-tat-ta??
頭(先端)・尖っている・肩・にある
(?? = 記録はあるが疑問点あり、類型未確認)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
国道 236 号の「紋別橋」のすぐ東で紋別川に合流する南支流です。『北海道実測切図』(1895 頃) には「エエンタク?」と描かれていますが、『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「ホンモンヘツ」と「ホンタツコフ」という支流が描かれていて、「インダタラ」または「エエンタタ」に近い川名は見当たりません。

陸軍図には、不思議なことに現在の「インダタラ川」沿いではなく「紋別川」の北に「ヱンダタラ」と描かれています。現在は「大樹町開進」ですが、かつては「円田鱈えんだたら」と呼ばれていたとのこと。

???

『十勝地名解』(1914) には次のように記されていました。

エンダクニラ
  川音高きとの義なり。
(井上寿・編著『十勝アイヌ語地名解』十勝地方史研究所(帯広) p.100 より引用)※ 原文ママ
「???」という感じですが、脚注を見ると……

 インニ・タッタラ・ベツ(森・厳なる・川)で、神域として敬まれていた。それがインダタラとなり、エンダタラとなまった。
(井上寿・編著『十勝アイヌ語地名解』十勝地方史研究所(帯広) p.100 より引用)
??????

エエンタク? エエンタタ?

ちょっと手に負えない感じになってきたので、違った切り口からアプローチしてみましょう。『北海道地形図』(1896) には「エエンタク」と描かれているように見えたのですが、『北海道実測切図』や『北海測量舎図』では「エエンタ」と描かれているように見えます。

また 1897(明治 30)年に出版された「北海之殖産 84 号」には「エヽンダタラ」との記録が見られるので、「エン」は「エエン」だったと見て良さそうに思えます。地名における「エエン」は「恵庭」の e-en-iwa のように「頭・とがっている」と見て良いでしょう。

となると「ダタラ」をどう解釈するかなのですが、以前に「以平町」(帯広市)や「イタラタラキ川」(更別村)で tattarke という動詞が出てきました。ただ tattarke は「踊らせる」と言った意味なので、e-en-tattarke であれば「頭・とがっている・踊らせる」となってしまい、意味をなしません。

尖っていたものは何か

何の「先端がとがっている」か……という点から考えてみました。国道 236 号の「紋別橋」と国道 336 号の「紋別大橋」の間に「藻岩山」という一等三角点(標高 134.2 m)があり、この山の頂上が尖っているのかと考えてみたのですが、ストリートビューで見た感じでは、とても「尖っている」ようには見えません。

となると源流部の山でしょうか。地理院地図では川として描かれていませんが、「インダタラ川」の源流部は二手に別れていて、どちらの川も比較的険しそうな山に挟まれているように見えます。

「タタ」あるいは「タタラ」が指すものが明瞭になれば片がつくのですが、これ!と言った解釈にどうやっても辿り着けません。「肩」を意味する tap という語があるので、e-en-tap-ta(破裂音の同化で e-en-tat-ta となるか)で「頭(先端)・尖っている・肩・にある」と解釈できなくは無い……かもしれませんが。

まさか……ね

あと、これは「まさか」という話ですが、e-en-ta-ta で「あなたが・私を・叩く・叩く」と解釈できるのかも……? つまり、そもそも地名では無い応答が地名に化けた可能性も微レ存……?

前の記事

www.bojan.net
Copyright © 1995- Bojan International

0 件のコメント:

新着記事