2025年1月5日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (1200) 「オソノウシ川・カラノ沢・ペンケオトシノ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

オソノウシ川

o-so-us-i
河口・滝・ついている・もの(川)
(記録あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
ペンケオマナイ川」から 2.3 km ほど上流側で札内川に合流する北支流です。『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) にはそれらしい名前が見当たらず、『午手控』(1858) や『戊午日誌』(1859-1863) 、『東蝦夷日誌』(1863-1867) などでも言及が見当たりません。

北海道実測切図』(1895 頃) には「オソーウシ」という川と、その東隣(下流側)に「ポンオソーウシ」という川が描かれていました。どうやら「オソウシ川」は「オソウシ」の転記ミスっぽい感じで、また「ポンオソーウシ」ではなく「オソーウシ」のほうが現在の「オソノウシ川」に該当しそうに見えます。

鎌田正信さんの『道東地方のアイヌ語地名』(1995) では次のような言及がありました。

オソーウシ
オソノウシ〔沢〕(地理院・営林署図)
(鎌田正信『道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】』私家版 p.63 より引用)
ああ、やはり「オソーウシ」=「オソノウシ」のようですね。o-so-us-i で「河口・滝・ついている・もの(川)」と見て良さそうな感じです。

 オソーウシ川の川尻は、札内川本流のダムによって造られた、湖に没してしまった。
(鎌田正信『道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】』私家版 p.63 より引用)
え……と思ったのですが、地理院地図を良く見てみると、確かに堤高があまり無さそうな、頭首工のようなダムがあります。なお陸軍図にはダムは描かれていませんが、オソーウシの河口に滝があったようには見えません。

so は一般的に「滝」と解釈されることが多いのですが、知里さんの『地名アイヌ語小辞典』(1956) には次のようにあります。

so そ(そー) ①水中のかくれ岩。②滝。③ ゆか(床)。④めん(面); 表面一帯。
(知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.125 より引用)
このように、so は「水中のかくれ岩」と解釈することもできそうなので、必ずしも落差があったとは言えない……という点に留意する必要がありそうです。今回は慣例?で「滝」としていますが、o-so-us-i は「河口・水中のかくれ岩・ついている・もの(川)」となる可能性が高いかもしれません。

カラノ沢

ku-kar-us-nay???
弓・作る・いつもする・川
(??? = アイヌ語に由来するかどうか要精査)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
「オソノウシ川」の河口のすぐ上流側で札内川に合流する南支流で、道道 111 号「静内中札内線」の「カラ沢橋」のある川です。

北海道実測切図』(1895 頃) には「クーカルウㇱュナイ」という名前の川が描かれています。永田地名解 (1891) には次のように記されていました。

Kū kar'ush nai   クー カルㇱュ ナイ   弓ヲ作ル澤 水松多シアイヌ伐リテ弓ヲ作ル
(永田方正『北海道蝦夷語地名解』国書刊行会 p.314 より引用)
ku-kar-us-nay で「弓・作る・いつもする・川」と見て良さそうな感じですね。ただ「実測切図」を見る限りでは「クーカルウㇱュナイ」=「カラノ沢」なのはほぼ間違い無さそうなのですが、「カラノ沢」というネーミングが「クーカルウㇱュナイ」に由来するかどうかは若干びみょうな感じもします(空似の可能性も否定できないほか、「クーカルウㇱュナイ」は次項の「ペンケオトシノ川」に相当する可能性もあります)。故に現時点では「要精査」としています。

ペンケオトシノ川

ku-kar-us-nay?
弓・作る・いつもする・川
(? = 記録はあるが疑問点あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地理院地図国土数値情報では「カラノ沢」の西隣の川とされているのですが、この川名は東(下流側)を流れる「ペンケオノオマナイ川」と酷似しているところが気になります。

厄介なことに、『北海道実測切図』(1895 頃) にもこの川の名前は描かれていません(「クーカルウㇱュナイ」とあるのは東隣の川名に見えます)。

鎌田正信さんの『道東地方のアイヌ語地名』(1995) には、更に頭を抱えるような事項が記されていました。

クーカルウシナイ
クウカルウㇱユナイ(地理院・営林署図)
 村営ピヨウタン牧場の治山ダムの上流を左側から二筋の川が流入している。上手を流れているのがこの沢で、道道の山女橋がかかっている。
(鎌田正信『道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】』私家版 p.63 より引用)※ 原文ママ
これは「二筋の川」の「上手かみて」を流れるほうが「クウカルウㇱママナイ」であるように読めます。ということで、国土地理院の「地図・空中写真閲覧サービス」で旧版の地形図を確認してみたところ、現在の地理院地図が「ペンケオトシノ川」とする川が、1976(昭和 51)年の地形図では「クウカルウナイ」となっていました(!)。

遅まきながら表にしてみました。今回は西(上流側)から東(下流側)に向かって並べています。

北海測量舎図クーカリウㇱュナイオソーウシ
北海道実測切図 (1895 頃)(無名の河川)クウカルウㇱュナイオソーウシ
2.5万地形図-岩内川上流-1976クウカルウシュナイカラノ沢オソノウシ沢
5万地形図-札内川上流-1977クウカルウシュナイカラノ沢オソノウシ沢
2.5万地形図-岩内川上流-1994ペンケオトシノ川カラノ沢オソノウシ川
5万地形図-札内川上流-1996ペンケオトシノ川カラノ沢オソノウシ川
国土数値情報ペンケオトシノ川カラノ沢オソノウシ川
地理院地図ペンケオトシノ川カラノ沢オソノウシ川

なんということでしょう~™。1977(昭和 52)年までは「クウカルウシュナイ」だった川が、1994(平成 6)年の地形図で「ペンケオトシノ川」に化けてしまっています。

また『北海測量舎図』では、本来「二筋の川」があるべきところに「クーカリウㇱュナイ」だけが描かれているのですが、これが現在の「ペンケオトシノ川」なのか、それとも「カラノ沢」なのかは、両者の特徴をそれぞれ併せ持つ形で描かれているため断言ができません。

一つ断言できそうなのは、現在の川名とされる「ペンケオトシノ川」には根拠が見いだせないということです。どこから出てきたのか正体不明ですが、やはり東(下流側)を流れる北支流の「ペンケオノオマナイ川」と混同した可能性がありそうに思えます。

1977(昭和 52)年まで?の川名「クウカルウシュナイ」については、前項で記した通り、ku-kar-us-nay で「弓・作る・いつもする・川」と見て良さそうに思えます。ただ『北海測量舎図』にある「クーカリウㇱュナイ」が実際にどの川を指していたのかは、上表の通り異同が見られるため、その点に注意が必要です。

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