2024年12月14日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (1193) 「イタラタラキ川・ペベギリ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

イタラタラキ川

i-tar-tar-ke-i??
人・踊り・踊り・させる・ところ
(?? = 記録はあるが疑問点あり、類型未確認)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
幕別町との町境近く、十勝スピードウェイの西を流れる川です。現在は「猿別川」の支流という扱いですが、陸軍図では「サッチャルベツ川」の支流として描かれていました。

北海道実測切図』(1895 頃) にも「イタラタラキ」と描かれていました。『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「イタラタラキ」に相当する名前の川は見当たりませんが、似た位置に「ヌウヘハナ」という川が描かれていました。

『十勝地名解』(1914) には次のように記されていました。

イタラタラキ
  原称は「イタラタラゲイ」なり。動揺する地との意にして、この地は湿地にしてその上を歩行すれば、大地動揺するより名づく。
(井上寿・編著『十勝アイヌ語地名解』十勝地方史研究所(帯広) p.54 より引用)
そして脚注には次のように記されていたのですが……

 イ・タラ・タラ・キイ(そこが・踊り・踊りするところ) と解釈できる。
(井上寿・編著『十勝アイヌ語地名解』十勝地方史研究所(帯広) p.54 より引用)
あれ? そう言えばどこかで聞いた話ですね。

漢字で似平をあてた。
(井上寿・編著『十勝アイヌ語地名解』十勝地方史研究所(帯広) p.54 より引用)※ 原文ママ
あー。帯広空港の北から東にかけて「平町」という場所があるのですね。帯広空港の敷地内?には「平遺跡」があるので、「似平」も誤字では無いのかもしれません。

以平町」のあたりには「イタラタラキ」あるいは「イタラタラキ川」が流れていた訳では無さそうですが、「西十線」の「小豆川」には「イタラタラキ橋」があるとのこと(!)。

更に不思議なことに、更別村の、かつての「イタラタラキ川」(現在は「猿別川」)の流域に「平」という名前の二等三角点(標高 164.5 m)が存在するのですね。

余談ですが、更別村には何故か三角点が 6 つしかありません。これは他の市町村と比べて異様に少ないのですが……。

「以平」は移転地名なのか

(毎度のことですが)訳がわからなくなってきたので、とりあえず表にまとめてみました。

帯広市幕別町更別村
東西蝦夷山川地理取調図 (1859)---
永田地名解 (1891)---
北海道実測切図 (1895 頃)--イタラタラキ
三角点選点(大正4年)--以平
陸軍図 (1925 頃)似平下似平イタラタラキ川
西似平
地理院地図帯広市以平町幕別町美川イタラタラキ川
その他イタラタラキ橋
(小豆川)
--

「イタラタラキ」という地名・川名は『北海道実測切図』が初出だったように見えます(見落としがあるかもしれませんが)。

また陸軍図によると、現在「幕別町美川」とされるあたりが「下似平」と呼ばれていたみたいです。「下似平」からサッチャルベツ川を遡ると「イタラタラキ川」ですが、両者は直線距離でも 5 km ほど離れています。

明治から大正にかけて、本来の(?)イタラタラキ川の流域から微妙に離れた所に「似平」という地名が *発生した* ようにも見えるのですが、「道北の釣りと旅」さんによると、まず「イタラタラキ川」の流域に「イタラタラキ駅逓所」が設置され、後に「サラベツ川」の流域に「下イタラタラキ駅逓所」が設置されたとのこと。

これまたややこしいことに、幕別町(当時は幕別村)の「下似平」は「猿別川」沿いで、「下イタラタラキ駅逓所」は上流側の「サラベツ川」沿いです。

更別村の「イタラタラキ川」と帯広市の「以平町」の関係ですが、下イタラタラキ駅逓所が帯広市寄りに立地したことで、「似平」という地名が指すエリアが予想外に広くなった……という話なのかもしれません。

「イタラタラキ」とは

そう言えば、そもそも「『イタラタラキ』はどういう意味?」という話だったような気がするのですが(汗)、山田秀三さんの『北海道の地名』(1994) には、『十勝地名解』の解を紹介した上で、次のように続けていました。

 知里博士小辞典には「tattarke-i タッタㇽケイ。水中に岩磐などあって川波の立ちさわぐ所;たぎつせ。〔←tar-tar-ke(踊り・踊り・する)-i(所)〕と書かれている。その語頭にイ(それが)がつくと安田氏の書いた形である。
(山田秀三『北海道の地名』草風館 p.307 より引用)
やはりと言うべきか、『十勝地名解』の解釈を是認するしか無さそうな感じですね。i- は第三人称主格で -ke は自動詞を他動詞化させるものなので、i-tar-tar-ke-i で「彼(彼女)・踊り・踊り・させる・ところ」となり、平易な言い方に直せば「人が踊り踊らされるところ」とでも言えそうでしょうか。

ペベギリ川

pe-pe-nay?
水・水・川
(? = 記録はあるが疑問点あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
帯広広尾自動車道の「更別 IC」の 2.2 km ほど西で「サラベツ川」に合流する北支流で、大半の区間が中札内村を流れています。

北海道実測切図』(1895 頃) では「子シコポップ」という名前で描かれているように見えます。「ペベギリ」では意味が良くわからないなぁ……と思っていたのですが、「地図・空中写真閲覧サービス」の「オンライン閲覧」で 1961(昭和 36)年測量の 1/25,000 図「更別」では「ペペナイ川」と描かれていました(!)。

昭和 43 年修正測量の 1/25,000 図「更別」では「ペベギリ川」となっていたので、どうやらこのタイミングで「ペベギリ川」という誤記が発生したっぽい感じですね。

「ペペナイ川」であれば pe-pe-nay で「水・水・川」となるでしょうか。後志の京極町にも「ペーペナイ川」があり、山田秀三さんの『北海道の地名』(1994) には次のように記されていました。

永田地名解は「ペーペ・ナイ pepe-nai。合流多き川」と書いた。言葉の形は pe-pe-nai(水・水・川)である。
(山田秀三『北海道の地名』草風館 p.467 より引用)
あら。既存の川名の解を引用して一件落着……と思っていたのですが、甘くなかったですね。中札内村から更別村を流れる「ペペナイ川」は、地図では「合流が多い川」に見えないのです。

改めて『地名アイヌ語小辞典』(1956) を見てみたところ、次のような項目がありました。

pé-pe ペペ 水たまりの群がって存在する所。[pe(水)の反復形]
知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.88 より引用)
この解釈なら「ペペナイ川」にも適合しそうな感じですね。pe-pe-nay は「水・水・川」ですが、{pe-pe}-nay で「{水たまりの多い}・川」だったのかもしれません。

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