2024年12月1日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (1190) 「忠類・忠類幌内川・コイカクシュトープイ川・セオトープイ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

忠類(ちゅうるい)

chiw-ruy?
水流・激しい
(? = 記録はあるが疑問点あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
かつての「忠類村」で、国鉄広尾線に同名の駅がありました。ということでまずは『北海道駅名の起源』(1973) を見ておきましょうか。

  忠 類(ちゅうるい)
所在地 (十勝国)広尾郡忠類村
開 駅 昭和5年10月10日
起 源 アイヌ語の「チウ・ルイ・ト・プッ」(流れの強い沼川)の上部をとって駅名としたものである。
(『北海道駅名の起源(昭和48年版)』日本国有鉄道北海道総局 p.142 より引用)
東西蝦夷山川地理取調図』(1859) にはそれらしい川を見つけられなかったのですが、『北海道実測切図』(1895 頃) には「チルイトープイ川」という川が描かれていました。

実測切図に描かれた「チエルイトープイ川」は、いつの間にか河川名が取り違えられたようで、現在「セオトープイ川」と呼ばれる川と同一であるように思われます。

改めて考えてみると疑問の残る地名です。chiw-ruy で「水流・激しい」とするのが定説とされていますが、*現在の* セオトープイ川が果たして「水流の激しい川」なのか、ちょっと疑問に思えてきました。

ただ、chiw-ruy に代わる、蓋然性のありそうな解が出てこないのも正直なところです(数時間ほど悩んだのですが)。chi-e-ran-i で「我ら・そこで・降りる・ところ」が転訛した……と想像するのが精一杯でしょうか。

山田秀三さんは、かつて『北海道の地名』(1994) にて

この辺は後の方に調べていただきたい処である。
山田秀三『北海道の地名』草風館 p.327 より引用)
と締めていましたが、めちゃくちゃ納得ですね……。

忠類幌内川(ちゅうるいほろない──)

koyka-kus-{to-pus-i}
東・を通る・{当縁川}
(記録あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
かつての忠類村南部で当縁川に東から合流する支流です。『北海道実測切図』(1895 頃) には「コイカクㇱュトープイ川」として描かれていますが、現在の「コイカクシュトープイ川」は全く場所が異なります。

面倒なことになってきたので、表にまとめておきましょうか。

東西蝦夷
山川地理取調図
(1859)
北海道実測切図 (1895 頃)陸軍図国土数値情報
トウフイトープイ川當緣川当縁川
(トウフイ)サクウㇱュトープイ川當緣川*1当縁川
-コイカクㇱュトープイ川當緣川*1忠類幌内川
-シロカカリトープイ川-コイカクシュトープイ川
シノマントウフツ?チエルイトープイ川-セオトープイ川
セヲトウフイセイオトープト-ポン二の沢川
*1 本流と支流のどちらも「當緣川」

どうやら派手に川名を取り違えたみたいですね(大樹から忠類にかけては取り違えが多いなぁ……)。ただ意味するところは明瞭で koyka-kus-{to-pus-i} で「東・を通る・{当縁川}」だと考えられます。

コイカクシュトープイ川

sirakkari-{to-pus-i}?
通り過ぎる・{当縁川}
(? = 記録あり、類型未確認)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
忠類の市街地から道道 319 号「生花大樹線」を東に向かうと「忠類橋」で当縁川を渡るのですが、忠類橋のすぐ西で「コイカクシュトープイ川」が北から合流しています。

この「コイカクシュトープイ川」は、『北海道実測切図』(1895 頃) には「シロカカリトープイ川」と描かれていた川です。更に「シロカカリトープイ川」自体の表記も揺れがあるので、改めて表にまとめてみました。

午手控 (1858)シロカヽイトフチ右小川
東西蝦夷山川地理取調図 (1859)シトカヽエトウフツ-
北海道実測切図 (1895 頃)シロカカリトープイ川-
国土数値情報コイカクシュトープイ川-

「シロカカリ」の意味ですが、『アイヌ語方言辞典』(1964) によると sirakkari で「通る」あるいは「通り過ぎる」という意味とのこと(旭川名寄)。実際に川沿いを道道 15 号「幕別大樹線」が並走していますし、幕別(糠内川筋)に出るのに良い交通路だったということかもしれません。sirakkari-{to-pus-i} で「通り過ぎる・{当縁川}」だったのではないでしょうか。

セオトープイ川

sei-o-{to-pus-i}?
貝・多くある・{当縁川}
(? = 記録はあるが疑問点あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
忠類の市街地の北を流れる川です。『北海道実測切図』(1895 頃) では現在の「ポン二の沢川」の位置に「セイオトープ」と描かれているように見えます(現在の「セオトープイ川」は「チエルイトープイ川」と認識されていたようです)。

どこかのタイミングで川名が移転した可能性がありますが、意味するところは sei-o-{to-pus-i} で「貝・多くある・{当縁川}」だと見て良さそうに思えます。

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