2024年11月16日土曜日

‹  前の投稿

北海道のアイヌ語地名 (1186) 「ヌビナイ川・旦根山・岩間内」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

ヌビナイ川

nupi-nay??
その野原・川
(?? = 記録はあるが疑問点あり、類型未確認)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
大樹町の中央を流れる歴舟れきふね川は、市街地から 10 km ほど遡ったところで「歴舟中の川」と「ヌビナイ川」が合流しています(二つの支流がまとめて歴舟川に合流しています)。

東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「ノビナイ」と描かれていますが、『北海道実測切図』(1895 頃) では「ヌピナイ」となっていて、アルファベットでも Nupnai と記されています。

ちょっと嫌な予感がしたので、表にまとめてみました。

辰手控 (1856)ノヒナイ-
午手控 (1858)ノヒナイ-
戊午日誌 (1859-1863)ノヒナイ其名義未だ解せず
東蝦夷日誌 (1863-1867)ノビナイ-
東西蝦夷山川地理取調図 (1859)ノビナイ-
改正北海道全図 (1887)ノヒナイ川-
永田地名解 (1891)--
北海道実測切図 (1895 頃)ヌピナイNupnai
北海道地名誌 (1975)ヌプナイ野の川
北海道の地名 (1994)nupi-naiその野原の・川

嫌な予感は半分ほど当たっていました。松浦武四郎は「ノヒナイ」あるいは「ノビナイ」と記録していて、永田地名解が世に出た頃に「ヌピナイ」という新解釈が現れたように見えます。ただ『永田地名解』には「ヌビナイ川」の項は無いみたいで、「実測切図」が「ヌピナイ」という解をどこから引っ張ってきたのかは不明のままです。

仮に「ノヒナイ」が元の形に近いとしても、そのままでは意味が取りづらいのも事実です。『地名アイヌ語小辞典』(1956) によると、pi には「引っ張る」という意味もあるみたいなので……

pi ぴ(ぴー) 《不完》引張る;抜く;ほぐす。
知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.94 より引用)
not-pi-nay で「岬・引っ張る・川」だったりしたら面白いかなぁ、などと考えてみました。

ただ、「実測切図」には Nupnai とあるので、これを素直に考えると nup-nay で「野・川」となります。山田秀三さんの『北海道の地名』には次のように記されていました。

 ヌビナイの語義がはっきりしない。ヌピ・ナイ(nupi-nai その野原の・川)だったのであろうか。
山田秀三『北海道の地名』草風館 p.328 より引用)
現在の川名は「ヌビナイ」で、松浦武四郎も「ノナイ」と記録しているので、nup ではなく所属形の nupi ではないかという考え方ですね。道庁の「アイヌ語地名リスト」もこの解を紹介しているので、現時点では nupi-nay で「その野原・川」と解釈すべきなんでしょうね。

旦根山(たんねやま)

tanne-nay
長い・川
(記録あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
ヌビナイ川の東側の台地は開拓されて「町営光地園牧場」となっているのですが、牧場の南西側の尾根の一角に「旦根山たんねやま」という名前の三等三角点(標高 441.9 m)が存在します。

三角点の東には深い谷が存在していて、国土数値情報によるとこの川は「ポン一の沢川」という名前のようです。『北海道実測切図』(1895 頃) には、ほぼ同一の位置に「タン子ナイ」という川が描かれています。

「実測切図」の「タン子ナイ」は「ポン一の沢川」よりも遥かに短い川として描かれているのですが、tanne-nay は「長い・川」なので、「実測切図」がこの川を不当に短く描いたと見て良さそうですね。

三角点の名前は、「タン子ナイ」を遡った先にあるので「旦根山」となったのだと思われます。

岩間内(いわまない)

nisey-char???
断崖・口
(??? = アイヌ語に由来するかどうか要精査)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
「旦根山」三角点から 1.8 km ほど西、「ヌビナイ川」の向こう側にある四等三角点の名前です(標高 449.6 m)。

北海道実測切図』(1895 頃) では、「岩間内」三角点の近くに「ポンニセイチャラ」という川が描かれていました。

「ポンニセイチャラ」はヌビナイ川の北支流として描かれていますが、すぐ先の南支流として「ポロニセイチャラ」が描かれていて、その東隣の川の名前が描かれていないので、「実測切図」の「ポンニセイチャラ」の位置は誤っている可能性もありそうです。

「ニセイチャラ」は nisey-char で「断崖・口」と解釈できます。nisey-char-oma-nay で「断崖・口・そこにある・川」あたりの川名が略された可能性がありそうです。

「岩間内」という三角点名ですが、nisey-char を「岩の口」と考えた意訳系地名なのかもしれません。「内」は nay と見て良いと思われますが、「ポンニセイチャラ」という川名(地名?)と「岩間内」との繋がりが明確ではない(推測に過ぎない)ので、現時点では「要精査」ですね……。

前の記事

www.bojan.net
Copyright © 1995- Bojan International

0 件のコメント:

新着記事