2024年11月9日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (1184) 「ペンケオラップ川・ニベシベツ川・空手内山」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

ペンケオラップ川

o-rap?
河口・両翼を張ったように突き出ている出崎
(? = 記録はあるが疑問点あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
国道 336 号の「湧洞大橋」の北西で湧洞川に合流する支流です。南隣の国道 336 号沿いには「パンケオラップ川」もあります。

東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「ヲヽラツフ」という名前の川が描かれていました。『北海道実測切図』(1895 頃) では「パンケオラㇷ゚」と「ペンケオラㇷ゚」という川が描かれていて、現在の川名に近くなっています。

なお『午手控』(1858) には「ユートウ」(=湧洞沼)に注ぐ川として次のように記されていました。

○ユートウ
 ヒラハクシ小川
 トイトククシベツ小川
 ヲン子ルアンケ小川
 チライウンベ小川
 チフタウシナイ小川(勇洞川)
 フブウシナイ小川
 ウニタトンベ小川
 チヨマナイ小川
松浦武四郎・著 秋葉実・翻刻・編『松浦武四郎選集 六』北海道出版企画センター p.117 より引用)
「チフタウシナイ」の項の(洞川)は、「チフタウシナイ」より前が「湧洞」ではなく「湧洞」に合流している、という意味だと思われます。そして奇妙なことに「ヲヽラツフ」に相当する川の記録が見当たりません。「東西蝦夷──」では「チフタウシナイ」と「フフウシナイ」の間に描かれていたのですが……。

「──実測切図」の記録が正しいとすると、「ペンケオラップ川」の前後の川名は以下の形だったと推定されます。

午手控 (1858)東西蝦夷
山川地理取調図 (1859)
北海道実測切図
(1895 頃)
国土数値情報
ヒラハクシ?ヒラヽクシ?トキサラサラチトウ川
チフタウシナイチフタウシナイチㇷ゚タウㇱュナイ-
-ヲヽラツフパンケオラㇷ゚パンケオラップ川
フブウシナイフフウシナイペンケオラㇷ゚ペンケオラップ川
--ルペㇱュペニベシベツ川
ウニタトンベウニタトシベオニタトーペッ-
チヨマナイチヨマナイ--
-ヘテウコヒ--

これを見る限りでは、「ペンケオラップ川」は「東西蝦夷──」で「フフウシナイ」とされる川と同一だったかもしれません。hup-us-nay は「トドマツ・多くある・川」と読めますね。

そして本来の「オラップ」は「パンケオラップ川」のことだったかもしれないのですが、だとすると、やはり o-rap で「河口・翼」でしょうか。「翼」とは妙な感じがしますが、『地名アイヌ語小辞典』(1956) には次のように記されています。

rap, -u らㇷ゚ ①羽;翼。 ②両翼を張ったように突出ている出崎。③=tapkop.
知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.105 より引用)
今回の場合は「②」に相当しそうに思えます。つまり正確には o-rap で「河口・両翼を張ったように突き出ている出崎」なんじゃないかな、と。本来は o-rap-us で「河口・両翼・ついている」あたりで、いつしか -us が落ちてしまったのかもしれません。

ニベシベツ川

ru-pes-pe?
道・に沿って下る・もの(川)
(? = 記録はあるが疑問点あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
道道 318 号「湧洞豊頃停車場線」を国道 336 号から 3.3 km ほど北上したところを流れる川です。『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) にはそれらしい名前の川が見当たりません。

「東西蝦夷──」と実際の地形を照合してみると色々と不整合があり、中でも右支流とされる「チヨマナイ」と、その先にあるとされる「ヘテウコヒ」が「──実測切図」以降では見当たらないという問題があります。「ヘテウコヒ」は川が二手に分かれるところの地名で、湧洞川において「ペテウコピ」に相当する場所を推定すると、ニベシベツ川の合流点が「ペテウコピ」だった可能性も出てきます。

「ヘテウコヒ」の手前の右手には「チヨマナイ」がある筈なので、現存する湧洞川の右支流の位置と併せて考えると、「ニベシベツ川の河口」が「ヘテウコヒ」だったとしても大きな矛盾はありません。

ただ『北海道実測切図』(1895 頃) には「ルペㇱュペ」と「オニタトーペッ」という西支流(左支流)が描かれています。川の位置(順番)を照合すると、「ルペㇱュペ」が現在の「ニベシベツ川」に相当するのですが、「ルペㇱュペ」は「ニベシベツ川」よりも遥かに短く描かれているという問題が残ります。

「ニベシベツ」は nipes-pet で「シナノキの樹皮・川」と読めます。ただ「──実測切図」の「ルペㇱュペ」が「ニベシベツ川」に化けた可能性が出てきました。現在の「ニベシベツ川」は豊頃町と大樹町の町境付近まで遡ることができるので、川沿いが峠道として使われたとしても不思議はないルートです。ru-pes-pe で「道・に沿って下る・もの(川)」が転記ミスで「ニベシ──」になった……ような気がしてきました。

空手内山(くうしゅないやま)

ku-us-nay?
仕掛け弓・多くある・川
(? = 記録はあるが疑問点あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
湧洞川の水源の東に「空手内山」という名前の二等三角点(標高 235.6 m)が存在します。『北海道実測切図』(1895 頃) では、この三角点の北東に「クーウㇱュナイ」という川が描かれていて、おそらくこの川名から命名したものと思われます(国土数値情報では「川名不明」という扱いです)。

「クーウㇱュナイ」は ku-us-nay で「仕掛け弓・多くある・川」と読めそうです。

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