2024年10月26日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (1180) 「打内川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

打内川(うつない──)

ut-nay
あばら・川
(記録あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
豊頃町北部で十勝川に合流する西支流です。『北海道実測切図』(1895 頃) には「トーナイ」と描かれていました。そう言われてみれば、川沿いの地名も「統内」です。

打内川の北で利別川が十勝川に合流していて、利別川沿いの豊頃町と池田町の境界近くに「打内太」という名前の二等三角点(標高 10.2 m)が存在します。三角点の南東に名称不明の河川(旧利別川の西支流)が存在するのですが、陸軍図ではこの名称不明の河川(旧利別川の旧河道)の近くに「打内太」と描かれていました。

改めて『北海道実測切図』を見てみると、旧利別川(当時は十勝川)の旧河道にできた三日月湖に「ペカンペクトー」と「ポロトー」と描かれていて、「トーナイ」(現在の「打内川」)はこの三日月湖に注いでいました。そして三日月湖は「ウッナイ」を経由して十勝川(現在の旧利別川)に注いでいました。

十勝川(現在の旧利別川)から遡ると、十勝川 → ウッナイ → ポロトー → トーナイとなるのですが、どこかのタイミングで「ウッナイ」が上流側の「トーナイ」を乗っ取ってしまった、ということのようです。

「深い」?

戊午日誌 (1859-1863) 「報十勝誌」には次のように記されていました。

また辰より卯に向三丁計りを過て
     ウツナイフト
右のかた小川也。其両岸蘆荻原也。ウツナイとは深きと云儀なり。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下』北海道出版企画センター p.349 より引用)
え??? 「深い」と言えば ooooho、あるいは rawne ですが……。

「脇川」?

ただ、『十勝地名解』(1914) には次のように記されていました。

ウチナイ・ブト
 「ウヅナイ・ブト」にして、「ウヅナイ」とは脇川、「ブト」とは川尻の地の義なれば、沼か川か、あるいはまた山か、そのほかなに物にても、この地において著じるしきものある、その脇を流るる川尻の地といえる義なり。
(井上寿・編著『十勝アイヌ語地名解』十勝地方史研究所(帯広) p.71 より引用)※ 原文ママ
「ウヅナイ」とありますが、これは「ウツ゚ナイ」の可能性がありそうな気もします。ut-nay が「肋・川」で、本流に対して直角に近い角度で合流する川のことを「あばら骨川」と呼ぶ、というのが定説とされています。

「あばら川」と「川の波立つ浅瀬」

地名アイヌ語小辞典』(1956) には次のように記されていました。

ut-uay, -e うッナィ ① 脇川; 横川。もと‘あばらぼね川’の義で,沼などから流れ出た細長い川が海まで行かずに途中で他の川の横腹に肋骨がくっつくように横から注いでいるようなのを云う。
知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.139-140 より引用)
ただ ut-nay の項の上に utka の項があり、次のように記されています。

utka うッカ 川の波だつ浅瀬;せせらぎ。 ──本来はわき腹の意で, そのように波だつ浅瀬をさす。
(知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.139 より引用)
松浦武四郎の各種の記録を見ると、ututka を略したものと捉えていた節が見受けられます(そして多くの場合、その解釈で合っていたと考えられます)。ただ今回の「打内太」の場合は、どう見ても「川の波立つ浅瀬」とは言えない地形だったため、「ウツナイとは深きと云儀なり」と書いてしまったのかもしれません。

「脇川」のオリジナルは?

ut-nay が「肋・川」だと言うのは知里真志保が提唱した……と勘違いしていたのですが、実際には永田地名解 (1891) に「脇川」という記録が大量に見つかりました。もっとも永田地名解では「直角に合流する」と読めるケースは稀で、斜里の「ウッ ナイ」の項に「本流ノ脇ニ横注スル川ナリ」とあるのが目立つくらいでしょうか(当該書 p.495)。

『十勝地名解』に(現在でも通用する)「脇川」という表現がありましたが、これは『十勝地名解』を監修した安田巌城のオリジナルではなく、永田地名解の影響を受けていた可能性がありそうですね。

実は「諸説あります」?

山田秀三の『北海道の地名』(1994) には、十勝川河口部の「ウツナイ川」の項で次のように記してありました。

 諸地のウッナイを見て来たが,実際は何と解していいか困る場合が多く,時々アイヌ系古老に聞いたが人により意見が違う。だいたいは低湿地の小流で,ここでは上原氏の枝川でまあまあ書いて置きたい。
(山田秀三『北海道の地名』草風館 p.291 より引用)
ちょっと意外な感じもしますが、これがリアルな認識だったのかもしれませんね。

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