2024年9月7日土曜日

北海道のアイヌ語地名 (1166) 「ケナシ川・ソウウンベツ川・ワツカシャクベツ川・クオタナイ沢川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

ケナシ川

kenas-chimi-p?
灌木の木原・左右にかき分ける・もの(川)
(? = 記録はあるが疑問点あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
道道 500 号「音別浦幌線」の「憩橋」のすぐ下流側で「常室とこむろ川」に合流する西支流です。『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) にはそれらしい川が見当たりませんが、『北海道実測切図』(1895 頃) には「ケナシチミㇷ゚」と描かれています。戊午日誌 (1859-1863) 「報十勝誌」には「トコムロ」の支流の情報も記されていますが、残念ながら該当する川の情報はありません。

「ケナシチミㇷ゚」を素直に読み解くと kenas-chimi-p で「灌木の木原・左右にかき分ける・もの(川)」となるでしょうか。この川は下流部で大きな S 字状のカーブを描いていて、そのことを指し示した川名だった可能性がありそうです。

なお『東西蝦夷山川地理取調図』には「トコムロ」(=常室川)と「ウラホロ」(=浦幌川)の間に「メナシチヒリ」と描かれていました。位置的には「ウラホロ」の支流だと思われますが、「ケナシチミㇷ゚」との類似性が高いので気になるところです。

ソウウンベツ川

so-un-pet?
水中のかくれ岩・そこに入る・川
(? = 記録はあるが疑問点あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
道道 500 号「音別浦幌線」は釧路市音別町ムリと十勝郡浦幌町炭山の間の 6.8 km が未共用ですが、「ソウウンベツ川」は現時点での浦幌側終点にほど近いところで常室川に合流しています。

地理院地図では「ソウウンベツ川」ですが、国土数値情報では「ソウンベツ川」で、また「ソーウンベツ小沢川」と「西リウンベツ川」という支流があることになっています。「西リウンベツ川」は「ソウンベツ川」(=ソウウンベツ川)の「東」を流れる支流で、「ウンベツ」は「ウンベツ」の誤字である可能性が高そうです。

また「ケナシ川」の北(「ソウウンベツ川」の南)にも「双運川」という川がありますが、この川は『北海道実測切図』(1895 頃) では「コキルペㇱュペ」となっています。「ソウウンベツ川」に相当する位置には「ソーウンペッ」とあるため、「双運川」は「ソーウンペッ」と混同したネーミングである可能性が疑われます。

「ソウウンベツ川」は so-un-pet で「滝・そこに入る・川」と読めます。上流部で「ソウウンベツ川」に注ぐ滝があるのかもしれませんが、あるいは「滝」ではなく「水中のかくれ岩・そこに入る・川」なのかもしれません。

ワツカシャクベツ川

wakka-sak-pet?
水・欠く・川
(? = 記録はあるが疑問点あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
ソウウンベツ川の合流点から常室川を遡った先に砂防ダムがあり、東から「ワツカシャクベツ川」が合流しています(川名は国土数値情報による)。『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) にはそれらしい名前の川が見当たらず、また『北海道実測切図』(1895 頃) にもそれらしい川が見当たりません。

『北海道実測切図』には、現在砂防ダムのあるあたりに東南東から合流する「クオーナイ」という川が描かれていて、現在の「ワツカシャクベツ川」に相当する位置には谷だけが描かれています(川としては扱われていない)。そして現在、国土数値情報では「クオタナイ沢川」とされる川の位置に「ワッカシャクペッ」と描かれていました。どこかのタイミングで川の位置を取り違えた可能性が濃厚ですね……。

「ワッカシャクペッ」は wakka-sak-pet で「水・欠く・川」と読めます(あるいは「飲水・欠く・川」かも)。現在「クオタナイ沢川」とされる川は水の乏しい川だった……のでしょうか。

常室川筋は「ソウウンベツ川」と「双運川」があったり「ワツカシャクベツ川」の場所が移転していたりで大混乱ですが、「ソウウンベツ川」の西に「若尺別」という三等三角点も存在していました。「若尺別」三角点の現況は「亡失」とのことで、何かと混乱が多いですね……。

川名の解釈について疑問を挟む余地は無いと思われますが、『北海道実測切図』と位置が異なるという意味で「?」を残しています。

クオタナイ沢川

ku-o-nay?
仕掛け弓・ある・川
(? = 記録はあるが疑問点あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
常室川の上流部で西から合流する支流です。『北海道実測切図』(1895 頃) では「ワッカシャクペッ」と描かれていました。

「ワツカシャクベツ川」の項でも記しましたが、『北海道実測切図』には、現在の砂防ダムの位置に東から注ぐ「クオーナイ」という川が描かれていました(現在の「ワツカシャクベツ川」と似通った位置ですが、「ワツカシャクベツ川」が北から南に流れる川なのに対し、「クオーナイ」は東南東から西北西に流れる川として描かれています)。

「ワッカシャクペッ」が「クオタナイ沢川」に化けたとなると、現在の「ワツカシャクベツ川」に近い位置で常室川に合流していた「クオーナイ」が「クオタナイ沢川」の元ネタだと考えたいところです。「クオナイ沢川」と「クオナイ」で地味に異なるのが痛いところですが……。

「クオタナイ」は意味不明ですが、「クオーナイ」であれば ku-o-nay で「仕掛け弓・ある・川」と読めます。「仕掛け弓」は、獲物が糸に触れると神経毒が塗られた矢が放たれる仕組みです。

「クオーナイ」が「クオタナイ」に化けた(しかも場所も取り違えた)という想像ですが、転記ミスか誤読があったのではないでしょうか……?

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