2024年8月17日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (1160) 「十勝太・チヤロ・ラヱベツブト」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

十勝太(とかちぶと)

tokapchi-putu
十勝川・河口
(記録あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
昆布刈石の南西、「浦幌十勝川」の河口付近の地名です。かつて海沿いの高台に「十勝太ロラン送信所」が存在していたことで密かに有名だったかもしれません。

東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には、河口付近に「トカチフト」と描かれていました。『北海道実測切図』(1895 頃) では「十勝太」ではなく「十勝」と描かれていて、河口には「十勝川」と描かれています。

『北海道実測切図』では現在の「十勝川」の位置に「大津川」とありますが、支流扱いだった「大津川」が河川改修の結果で本流と目されることになり、旧来の「十勝川」が「浦幌十勝川」と呼ばれるようになった、ということのようです。

「十勝太」という地名は tokapchi-putu で「十勝川・河口」と解釈できます。「十勝川」の河口は 5 km ほど南西に移動してしまいましたが、「十勝太」という地名がかつての河口の存在を今に伝えている……ということになりそうですね。

チヤロ

charo???
その入口
(??? = アイヌ語に由来するかどうか要精査)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
OpenStreetMap によると、浦幌十勝川の河口付近が「字十勝」で、その北東に「字チヤロ」があり、更にその北東が「字十勝太」となっています。「チヤロ」という住所は現在では使用されていないかもしれませんが、運輸局住所コードにも登録されているので、一応「現役地名」として扱います。

「チヤロ」は charo で「その入口」だと考えられるのですが、十勝川の河口(=十勝川の入口)は「十勝太」なので、それとは別の「入口」を指していたと考えるのが自然です。

北海道実測切図』(1895 頃) は、十勝川(=浦幌十勝川)の河口付近で川が二手に分かれて、間に中洲があるように描いています。「陸軍図」には、この中洲は描かれていませんが、かつての南側の流れの跡と思しき沼が描かれています。

『北海道実測切図』と「陸軍図」には、十勝太の南西に沼(ヌタペットー)が描かれていて、この沼と十勝川は川で繋がっているように描かれています。十勝川(=浦幌十勝川)とヌタペットーの間の川を「(ヌタペットーの)入口」と呼んだという可能性があるかもしれません(to-char「沼の・口」の省略形かも)。

「チヤロ」という地名は「陸軍図」以前の地図で確認できないので、例によって「要精査」としています。

ラヱベツブト(らえべつぶと)

ray-pet-put???
死んだ・川・河口
(??? = アイヌ語に由来するかどうか要精査)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
OpenStreetMap によると、浦幌十勝川の河口の南側に「字ラエベツブト」が存在するとのこと。運輸局住所コードには「ラエベツブト」とあり、また一部の地図サイトでは「ラヱベツブト」と表示されています。

東西蝦夷山川地理取調図』(1859) や『北海道実測切図』(1895 頃) 、あるいは「陸軍図」ではそれらしい地名が見当たりません。「ベツ」は pet で「川」を意味し、「ブト」は put で「河口」を意味すると思われるので、あとは「ラエ」をどう解釈するかなのですが、ray-e であれば「殺す」となるでしょうか。

ただ {ray-e}-pet-put で「{殺す}・川・河口」というのは変なので、ray-pet-put で「死んだ・川・河口」と見るべきでしょうか。『地名アイヌ語小辞典』(1956) には ray-pet で立項されていて、次のように記されていました。

ray-pet らィペッ もと‘死んだ川’の義。古川で水が流れるとも見えず停滞しているもの。
知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.106 より引用)
「死んだように流れが停滞した川」と言うと、「チヤロ」の項でも記した「十勝川」(=浦幌十勝川)の中洲の南側の流れが思い出されます。「陸軍図」では「中洲の南側の流れ」の河跡湖が描かれているので、もともと「死んだような川」だった可能性がありそうです。

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