(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
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直別(ちょくべつ)
(? = 記録はあるが疑問点あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
釧路市(旧・音別町)西部の地名で、同名の川が十勝郡浦幌町との境界を流れています。かつては同名の駅も存在していましたが、2016 年時点で「極端にご利用の少ない駅」にリストアップされ、その後 2019 年にお隣の尺別駅とともに廃止されてしまい、現在は「直別信号場」となっています。駅名の起源
まずは「北海道駅名の起源」を見ておきましょうか。直 別(ちょくべつ)
所在地 (釧路国)白糠郡音別町
開 駅 明治40年10月25日 (客)
起 源 アイヌ語の「チュク・ペッ」(秋の川)から出たもので、夏は水かれして流れがなくなったからである。
(『北海道駅名の起源(昭和48年版)』日本国有鉄道北海道総局 p.127 より引用)
どこかで聞いた話ですが、お隣の尺別駅の項には次のように記されていました。尺 別(しゃくべつ)
所在地 (釧路国)白糠郡音別町
開 駅 大正 9 年 4 月 1 日 (客)
起 源 アイヌ語の「サッ・ペッ」(かれた川)から出たもので、最初車扱貨物駅として開業したが、大正14年 2 月 1 日に一般貨物の取り扱いを開始し、昭和 5 年 4 月 1 日一般駅となった。
(『北海道駅名の起源(昭和48年版)』日本国有鉄道北海道総局 p.127 より引用)
そっくりとまでは言わないものの、かなり似ていますね。『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「チヨクヘツ」という名前の川が描かれていました。『北海道実測切図』(1895 頃) では、川名は「チュㇰペッ」で、駅の近くに「直別」と描かれています。
夏枯れする「秋の川」説
永田地名解 (1891) には次のように記されていました。Chuk pet チュㇰ ペッ 秋川 夏日水涸レ秋潦大ニ漲ルchuk-pet で「秋・川」ではないか……ということですね。どうやら「駅名の起源」の解は永田地名解を踏襲したみたいです。
アキアジを捕る「秋の川」説
上原熊次郎の『蝦夷地名考幷里程記』(1824) には次のように記されていました。チウクベツ トカチ・シラヌカ境 川舟渡
夷語チゥクベツとは、秋の川といふ事。扨、チゥクとは秋の事、ベツは川の事にて、年々秋中に至れは、最寄住居の夷人共此川邊江来りて小魚を得、夫食になす故、字になすといふ。
(上原熊次郎『蝦夷地名考幷里程記』草風館『アイヌ語地名資料集成』p.62 より引用)
これも chuk-pet で「秋・川」ですね。ただ「夏枯れする川」ではなく「秋に魚を捕る川」にニュアンスが変化しています。そもそも「秋の川」というのは少々解せない感じもありますが、『地名アイヌ語小辞典』(1956) には次のように記されていました。
chuk,-i ちゅㇰ 秋。地名の中では「チュきぺ」(chuk-ipe 秋のサケ)を意味することもあったらしい。
(知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.22 より引用)
地名における chuk(秋)は chuk-ipe(秋の鮭)を意味していた……と考えたほうが良さそうですね。「秋の川」は「アキアジの川」だった……と見るべきでしょうか。秋に水が涸れる「秋の川」説
細かい話ですが chuk-pet であれば「チュクペッ」であり、これは『北海道実測切図』の記録と一致しますが、「東西蝦夷──」の「チチヨクヘツ チヨク・ヘツ 秋・川
此所秋に相成候得ば水干を 斯名附由。
(加賀伝蔵・著 秋葉実・編「加賀家文書」北海道出版企画センター『北方史史料集成【第二巻】』 p.254 より引用)
この解は「チヨク」が chuk であるとしていて、「チュク」=「チョク」だと言っていることになりますね。月のように大きな星が降ってきた「月の川」説
一方で、『東蝦夷日誌』(1863-1867) には他とは異なるユニークな解が記されていました。チユクベツ〔直別〕の譯をクスリにて審み ば、本名チユフベツにて、昔川上え月の位の星が落し故號 くと。
(松浦武四郎・著、吉田常吉・編『新版 蝦夷日誌(上)』時事通信社 p.294 より引用)
川上に月のように大きな星が降ってきたので chup-pet で「月・川」だ……とのこと。ただこの説は「松浦武四郎は「東西蝦夷──」で「チヨクヘツ」と描きつつ、ここでは「チ
まとめ
今更ですが、表にまとめておきましょうか。東蝦夷地名考 (1808) | 記載なし | - |
---|---|---|
大日本沿海輿地図 (1821) | 記載なし | - |
蝦夷地名考幷里程記 (1824) | チウクベツ | 秋の川(魚を捕る) |
クスリ地名解 (1832) | チヨクヘツ | 秋・川( |
初航蝦夷日誌 (1850) | チユクベツ | - |
竹四郎廻浦日記 (1856) | チユクベツ | - |
午手控 (1858) | チョクヘツ | - |
東西蝦夷山川地理取調図 (1859) | チヨクヘツ | - |
東蝦夷日誌 (1863-1867) | チユクベツ | 月のような星が落ちたので |
改正北海道全図 (1887) | チユㇰヘツ川 | - |
永田地名解 (1891) | チュㇰ ペッ | 秋川( |
北海道実測切図 (1895 頃) | チュㇰペッ | - |
あれれ、「アキアジを捕る川」は上原熊次郎だけだったんですね。そして「チュク」と「チョク」はどちらも見られるので、これは大きな問題では無さそうです。正確な含意には異同もあるものの、chuk-pet で「秋・川」と見て良さそうに思えます。
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