2024年7月20日土曜日

北海道のアイヌ語地名 (1152) 「止若・ソウオンベツ沢川・雪乱山」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

止若(とめわか)

yam-wakka
冷たい・水
(記録あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
音別町チャンベツの北で音別川に合流する「萬の沢川」(かつて「タン子ナイ」と呼ばれた川)を遡った先に、「止若」という名前の三等三角点があります(標高 358.6 m)。面白いことに、この三角点は「とめわか」と読ませるそうなのですが……。

北海道実測切図』(1895 頃) を見てみると、「タン子ナイ」の北に「ヤㇺワㇰカ」という川が描かれていました(現在「クマの沢川」と呼ばれる川だと思われます)。yam-wakka で「冷たい・水」と解釈できます。

止若とめわか」という三角点の名前は「ヤㇺワㇰカ」に漢字を当てたものの、難読だったからか字に引きずられて「とめわか」に読みが変わってしまった可能性がありそうです。

この考え方の難点は、「クマの沢川」を遡っても「止若」三角点にたどり着けない(2 km ほど離れている)というところですが、南隣の「タンの沢川」を「ヤㇺワㇰカ」と誤認したとすれば説明がつく、かもしれません。

あるいは「タン子ナイ」(現在の「萬の沢川」)も「ヤムワッカ」だった可能性もあるかもしれませんが、その可能性を窺わせそうな傍証は見当たらないのが実情です。

ソウオンベツ沢川

so-{o-mu-pet}?
滝・{音別川}
(? = 記録はあるが疑問点あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
音別川は上流部で「ポンオンベツ沢川」が分岐していて、「ポンオンベツ沢川」からは「ソウオンベツ沢川」が分岐しています。北から「音別川」「ソウオンベツ沢川」「ポンオンベツ沢川」が並ぶことになります。

「ポンオンベツ沢川」から北に向かって山越えする「衆音林道」という林道が存在します。この林道は「ポンオンベツ沢川」から「ソウオンベツ沢川」と「音別川」を経由して「サトンベツ川」に出るルートで、音別川沿いで道東自動車道と立体交叉しています。

「衆音林道」というネーミングは「ソウオンベツ沢川」に由来するのか……と思ったのですが、不思議なことに音別川沿いの道東自動車道に「衆音別トンネル」が存在します。このあたりの音別川はかつて「シーオンペツ」と呼ばれていたようなので、「衆音別」は「シーオンペツ」の当て字だった可能性がありそうです。

北海道実測切図』(1895 頃) には、現在の「ソウオンベツ沢川」の位置に「ソーオンペツ」と描かれていました。素直に解釈すると so-{o-mu-pet} で「滝・{音別川}」となりそうですが、so-un-{o-mu-pet}(滝・そこに入る・音別川)の -un あたりが略された可能性もあるかもしれません。

雪乱山(ゆきらんざん)

yuk-e-ran-nupuri
鹿・そこで・降りる・山
(記録あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
「ソウオンベツ沢川」を遡った先の山の頂上付近に「雪乱山ゆきらんざん」という名前の二等三角点が存在します(標高 721.3 m)。もしかして……と思って『北海道実測切図』(1895 頃) を見てみたところ、「ユケランヌプリ」という標高 717 m の山が描かれていました。

「ユケランヌプリ」を素直に解釈すると yuk-e-ran-nupuri で「鹿・そこで・降りる・山」となります。道内のところどころに「神様が天上から鹿を下ろした山」が存在しますが、この山もその一つだった可能性があるかもしれません。

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