2024年7月13日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (1150) 「ヌプキベツ川・イツカンベツ沢川・ダンネナイ」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

ヌプキベツ川

nupki-pet
にごり水・川
(記録あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
音別川の支流である)チャンベツ川の北支流です。チャンベツ川よりもヌプキベツ川のほうが川の規模が大きいように思えるのですが、ただ川の長さで見るとチャンベツ川のほうが長いような……(上流部で大きく捻じ曲がっている分があるので)。

東西蝦夷山川地理取調図』(1859) にはそれらしい川が描かれていませんが、『北海道実測切図』(1895 頃) には「ヌプキペッ」と描かれていました。

手元の資料には言及が無い……と思っていたのですが、意外なことに『角川日本地名大辞典』(1987) に記載がありました。

 ぬぷきべつ ヌプキベツ <音別町>
〔近代〕昭和34年~現在の音別町の行政字名。もとは音別村の一部。地名の由来は,アイヌ語のヌプキベツ(渇水する川)により,野地水が流れる地域。
(『角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)』角川書店 p.1117 より引用)
え。「ヌプキ」が何故「渇水する」になるのか……。『地名アイヌ語小辞典』(1956) には次のように記されています。

nup-ki ぬㇷ゚キ にごり水。[<nup-ke(野・油)]
知里真志保『地名アイヌ語小辞典』北海道出版企画センター p.69 より引用)
素直に考えると nupki-pet は「にごり水・川」と捉えるべきですよね。平取の「貫気別」や豊浦町の「貫気別川」と同系の川名だと思われます。

イツカンベツ沢川

e-kan-pet???
頭・の上に入る・川
(??? = アイヌ語に由来するかどうか要精査)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
音別町ヌプキベツ原野西二線のあたりで北からヌプキベツ川に合流する支流です。イツカンベツ川(国土数値情報では「イッカンベツ川」)はヌプキベツ川の支流の中でもっとも長そうな川で、イツカンベツ川を遡るとチャンベツ川の水源近くに出ることになります。

北海道実測切図』(1895 頃) は「ヌプキペッ」が実際より短く描かれていることもあり、「イツカンベツ沢川」に相当する川は描かれていません。しかも大正時代の「陸軍図」にもそれらしい川が描かれていないため、ある種の「幻の川」のようになってしまっています。

「イカンベツ」であれば ika-un-pet で「渡渉する・いつもする・川」と解釈できそうですが、「イッカンベツ」あるいは「イツカンベツ」であればベツの可能性も考えたいところです。

i-kan-pet であれば「それ・の上にある・川」と読めそうでしょうか。ヌプキベツ川に合流するところで標高 190 m ほどの山を迂回していて、このことを指した川名かな、と考えてみました。ただ、これであれば i-kan-pet よりも e-kan-pet で「頭・の上に入る・川」と考えたほうが良いかもしれません。

なお、この川名は陸軍図以前の地図で確認ができないので、アイヌ語由来であるか否かは「要精査」となります……。

ダンネナイ

tanne-nay
長い・川
(記録あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
もしかしたら事実上の消滅地名なのかもしれませんが、OpenStreetMap には「音別町ヌプキベツ原野基線」の東の山中に「音別町ダンネナイ」と記されています。また「運輸局住所コード」には「音別町ンネナイ」が存在します。

ふと思ったのですが、運輸局住所コードって市町村合併の際にメンテされていたんですね……。

北海道実測切図』(1895 頃) では、「ヌプキペッ」の北東に、音別川の支流として「タン子ナイ」という川が描かれていました。現在は「萬の沢川」という名前ですが、この川沿いが「タンネナイ」あるいは「ダンネナイ」と呼ばれたことがあった……ということかもしれません。

「タンネナイ」は tanne-nay で「長い・川」ですが、現在の「萬の沢川」は「チャンベツ川」や「ヌプキベツ川」と比べると遥かに短い川で、これで「タンネ」を名乗るのは少々不思議な感じもします。ただ「萬の沢川」を中心に考えてみると、(チャンベツ川を除けば)このあたりの川の中では *比較的* 長い川と言えそうな……言えるか?……いや、言わねば……(汗)

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