2024年6月1日土曜日

北海道のアイヌ語地名 (1142) 「恋隠・シャチホロ川・イワイト」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

恋隠(こいかくし)

koyka-kus-{uwatte-pet}
東・通る・{和天別川}
(記録あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
和天別川の中流部で北東から合流する「恋隠川」という支流があり、その川沿いの地名です。『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) にはそれらしい川が見当たりませんが(「ルヘシナイ」が相当する可能性あり)、『北海道実測切図』(1895 頃) には「コイカクシュウワッテペツ」と描かれていました。

「広報しらぬか」に連載された「和天別川筋のアイヌ語地名」によると、「コイカクシワッテ」は「コイカ(東方の)・クㇱ(通る)・ウワッテ(和天別川)」とのこと。koyka-kus-{uwatte-pet} で「東・通る・{和天別川}」と見て良さそうですね。

なお、詳しくは「和天別川筋のアイヌ語地名」を確認頂きたいのですが、貫塩喜蔵エカシは「『コィ・カ』は『波の上』と解することもできる」として津波伝説と絡めて解釈していたとのこと。白糠には「キラコタン」という「実例」があるものの、「コイカ」を「津波」と結びつけるのはちょっと考えすぎじゃないかなぁと思ってしまいます。

シャチホロ川

sat-e-woro?
乾いた・頭・水に入っている
(? = 記録はあるが疑問点あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
恋隠川のすぐ上流で和天別川に合流する西支流です。川の北には「鯱幌しゃちほろ」という名前の四等三角点もあります(標高 82.3 m)。

東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「サケヲロ」とあり、『北海道実測切図』(1895 頃) には「シャチイオロ」と描かれていました。「東西蝦夷──」では、一見「ワツテ」(=和天別川)の支流である「トフヨカウシナイ」から「サケヲロ」が分岐しているようにも見えますが、これは狭いスペースに無理やり文字を書き込んだために、そう見えただけと考えられます。

「東西蝦夷──」では、「モヲトケフ」(=戻辺川)の流域が不当に大きく描かれているのがそもそもの原因と言えそうです。

「広報しらぬか」に連載された「和天別川筋のアイヌ語地名」によると、「シャチ=サッ(乾いた)・ホロ(水)」ではないかとのこと。また、次のようにも記されていました。

 古地図には「シャチオロ」と記載されているものがありますが、白糠地名研究会は「サッ(乾いている)・オロ(ところ)」という意味で、シャチホロと同じく乾いているところを表すと説明しています。
(広報しらぬか「和天別川筋のアイヌ語地名」より引用)
一見無理のない解釈にも思えますが、『北海道実測切図』に「シャチイオロ」とあるのが気になるところです。というのも、「サッ・ホロ」または「サッ・オロ」と「シャチイオロ」の間の乖離が大きいと思われるのですね。「サッ・ホロ」が「シャチホロ」になるのは理解できるのですが、「シャチオロ」という発音はあまりにくどいような……。

謎の「トフヨカウシナイ」

一方で、『東蝦夷日誌』(1863-1867) には次のように記されていました。

 ワツテ(左川)とは五本の指を開きし形と云。此川五六町上にてモトケフ(北より一番)、ヲサウシ(北より二ばん)、ユウル(北より三番)、ルベシナイ(北より四ばん)、サケヲロ(北より五ばん)、此川にまたトフヨカウシナイとならび有る故に號く。
松浦武四郎・著、吉田常吉・編『新版 蝦夷日誌(上)』時事通信社 p.298 より引用)
この文の中で特に謎めいているのが「トフヨカウシナイと幷び有る故になづく」で、「トフヨカウシナイ」自体は「ワツテ」(=和天別川)の支流としては出てこないのですね。ただ、この文を見た限り、「サケヲロ」(おそらくシャチホロ川)と「トフヨカウシナイ」には何らかの関連性(類似性?)がありそうに思えます。

また、松浦武四郎が「北より三番」とした「ユウル」は、その後「イオロウシ」と記録された地名だと推定されます。この「イオロウシ」は広報しらぬか「和天別川筋のアイヌ語地名」でも言及のある通り、現在の「駒越大橋」の北側の山のことだと考えられるのですが、そうなると「和天別川の五つの支流」を列挙した中に含まれるのは不適切にも思えます。

仮に「トフヨカウシナイ」が「ユウル」(後の「イオロウシ」)の近くを流れていたとすると、「シャチイオロ」という川名は「イオロウシ」と区別するためのネーミングだ、と考えられるんじゃないかな、と。sat-e-woro で「乾いた・頭・水に入っている」と解釈できたりしないでしょうか。

ただ、この考え方は『北海道実測切図』で描かれた「トピウカウシナイ」の位置が誤りだったとする必要が出てくるのですが……。

イワイト

iwa-etu
山・岬
(記録あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
Google マップで「イワイト」を検索すると「フライトパーク白糠」の南側の一角が表示されます。『東西蝦夷山川地理取調図』(1859) には「ユワエト」とあり、『北海道実測切図』(1895 頃) には現在地よりも少し西の海沿いに「イワエト゚」と描かれています。

『角川日本地名大辞典』(1987) には次のように記されていました。

 いわいと イワイト <白糠町>
〔近代〕昭和46年~現在の白糠しらぬか町の行政字名。もとは白糠町大字白糠村の一部,イワイト。地名はアイヌ語のイワエト(山の崎の意)に由来し(白糠町史),波で洗われる岩崖が続くところから付けられたと思われる。
(『角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)』角川書店 p.156 より引用)
iwa-etu で「山・岬」と考えて良さそうですね。

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