(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。
幌戸(ぽろと)
(記録あり、類型多数)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
浜中町「東西蝦夷山川地理取調図」には「ホロト」という川が描かれています。また戊午日誌 (1859-1863) 「東部能都之也布誌」には次のように記されていました。
ホロトウ
小川有。其川の東に番屋有〔梁五間桁十三間〕板蔵五棟・茅蔵六棟。其ホロトウは大なる沼と云儀。此川上に谷地沼一ツ有るより号るなり。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.558 より引用)
また、永田地名解 (1891) にも次のように記されていました。Poro tō ポロ トー 大沼どこからどう見ても poro-to で「大きな・沼」と解釈するしか無さそうな感じですね(汗)。
奔幌戸(ぽんぽろと)
(記録あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
浜中町Poro tō ポロ トー 大沼
Pon poro tō ポン ポロ トー 小沼
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.356 より引用)
知里さんが「単語の一つや二つは飛ばして訳し」と言い出しそうな解ですね。poro-to が「大沼」なのは良いとして、pon-poro-to が「小沼」というのは、真ん中の poro はどこへ行った……?戊午日誌 (1859-1863) 「東部能都之也布誌」には次のように記されていました。
ホロトウ
小川有。其川の東に番屋有〔梁五間桁十三間〕板蔵五棟・茅蔵六棟。其ホロトウは大なる沼と云儀。此川上に谷地沼一ツ有るより号るなり。七八丁浜まゝを行て、山の平下を廻りて
ホンホロトウ
川巾二間、其上に谷地沼の小さき有、よつて号るとかや。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.558 より引用)※ 原文ママ
「ホロトウは大なる沼」としつつ、「ホンホロトウ」は「沼の小さき有」と記していて、うまく誤魔化した感が……?この pon-poro-to ですが、poro-to が固有名詞化して pon-{poro-to} で「小さな・{ポロトー}」になった……と考えるべきなんでしょうね。
山田秀三さんの「北海道の地名」(1994) には次のように記されていました。
東隣の方の沼は,たぶんポン・ト(pon-to 小さい・沼)だったのであろうが,後にポロト(沼)の名の方が意味を離れた固有名詞になったために,ポン・ポロト(小さい・幌戸沼)と呼ばれるようになったのであろう。アイヌコタンで知られている白老のポロトと隣のポンポロト(元来はただポントだった)と同じことだったのであろう。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.255 より引用)
ほう……と思って地理院地図で確かめてみたんですが、「ウポポイ」の北に広がる湖の名前が「ポロト湖」で、その西隣にある小さな沼が「ポント沼」となっていました。また明治時代の地形図では、何故か「ポロト湖」の位置に「ポントー」と描かれていて、「ポンポロト」という沼は確認できませんでした。魚の取れる小さな沼?
pon と poro は、「小さな」「大きな」と解釈することが多いですが、更科源蔵さんは独自の解釈を提唱していました。奔幌戸(ぽんぽろと)
浜中幌戸の隣の地名。アイヌ語ポン・ポロ・トはこれまでの訳なら「小さい・大きい・沼」としなければならない。屈斜路湖の砂湯の近くに、ポロモイとポンポロモイがあり、宗谷の歌登にポンポロナイがある。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.272 より引用)
あ、確かに道道 220 号「歌登咲来停車場線」沿いに「ポンポロナイ川」がありますね。砂湯の近くの「ポンポロモイ」については、「ポロモイ」と「ホンムイ」がそれぞれ確認できましたが、「ポンポロモイ」については未確認です。ポンポロは「少し大事な・・・」と訳すぺきものと思う。ポンは小さいというよりも、「役にたたない」、「子供の」などの意味である。ポンポロトは少し魚のとれる沼だったと思う。今ぱ湿地になって沼ではない。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.272-273 より引用)
pon と poro について、物理的な大小ではなく、また川の本流と支流という関係(親子関係)でもなく、「役に立たない」「役に立つ」と捉えるべき……という考え方です。この考え方をもとに更科さんは「少し魚のとれる沼」と考えたようですが、ハイブリッド的な解釈で「小さな・魚のとれる沼」とも言えそうな気もします。「ホロト」(=幌戸)と「ホンホロト」(=奔幌戸)の大小関係は明らかなので、山田さんは「ポロト」が固有名詞化したと考えたようですが、poro が「役に立つ(魚のとれる)」だとする更科説で考えると、意外としっくり来るんですよね。
幌戸沼は「小さな沼」?
ただ、改めて「アイヌ語地名解」(1982) を眺めていると、こんな記載もありました。「奔幌戸」のお隣の「幌戸」の項なんですが……幌戸(ぽろと)
浜中海岸の部落名。近くの沼をポロ・トと呼んでいたのが語源で、ポロ・トはこれまで大沼と訳されていたが、これはまことに小さな沼であり、とても大沼などというものではない。魚のよくとれる大事な沼の意である。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.272 より引用)
「これはまことに小さな沼であり」というのは……ちょっとどうかと。小さな川であっても「このあたりの川の中では大きな川」ということで poro-pet と呼ばれるケースも少なからずあるので、この「小さな沼」という指摘はおかしいのでは……と思えてなりません。poro-to は「重要な沼」だという更科さんの独自解釈にちょっとこだわりすぎているのでは、と思えるんですよね。www.bojan.net
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