(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
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貰人(もうらいと)
(記録あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
浜中町恵茶人の西隣の地名で、同名の川(貰人川)も流れています。「東西蝦夷山川地理取調図」(1859) には「モエレマートコ」と描かれていて、明治時代の地形図には「ポンモイレモイ」と描かれています。戊午日誌 (1859-1863) 「東部能都之也布誌」には次のように記されていました。
過てしばし行
モエーレアトイ
本名モイレアトイ、此処え下る。惣てレツハモイより此処迄は海岸通り難きより、如レ此皆小道を来ることなりと。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.559-560 より引用)
「レツハモイ」はおそらく赤泊のあたりで、現在の道道 142 号「根室浜中釧路線」も海沿いを離れて内陸部を通っています。地名モイレは遅き、アトイは汐路を来ることなりと。汐の通るが遅きと云儀也。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.560 より引用)
うーん。atuy は単純に「海」と解するのが一般的だと思うので、moyre-atuy だと「流れの遅い・海」か、あるいは「静かである・海」と考えて良さそうに思えます。「東西蝦夷──」の「モエレマートコ」は(誤字では無いとすれば)moyre-ma-etoko で「静かな・澗・その奥」とかでしょうか。「ポンモイレモイ」は pon-moyre-moy で「小さな・静かな・入江」と読めそうな感じです。
仙鳳趾(せんぽうじ)
(? = 記録はあるが疑問点あり、類型あり)
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浜中町貰人の西隣の地名で、同名の川(仙鳳趾川)も流れています。テンプレ書き出し万歳……!(ぉぃ)釧路町に同字の「
「ホロチエフホフシナイ」と「大ゼンポージ」
明治時代の地形図には「大ゼンポージ」「中センポージ」そして「前ゼンポージ」と描かれていました。「中永田地名解 (1891) には次のように記されていました。
Pon chep moi ポン チェㇷ゚ モイ 小魚集ル灣あれっ、と思って明治時代の地形図を見直したところ、現在「仙鳳趾川」が流れているあたりに「ポロチェプモイ」と描かれていました。ということで今更ですが表にまとめてみましょうか。
Poro chep moi ポロ チェㇷ゚ モイ 大魚集ル灣
初航蝦夷日誌 (1850) | 東西蝦夷山川地理取調図 (1859) | 明治時代の地形図 | 現在の地名 |
---|---|---|---|
ウラヤコタン | ウラヤコタン | ウライコタン | 羨古丹 |
- | レツハモイ | - | - |
トカリイソ | トカリイソ | ト゚カリソ | - |
トマリ | - | アカトマリ | 赤泊 |
- | - | 前ゼンポージ | - |
ホンゼンホウジ | ホンチエフホフンナイ | 中ゼンポージ | 赤泊川 |
ヲン子ゼンホウジ | ホロチエフホフシナイ | ポロチェプモイ (大ゼンポージ) | 仙鳳趾 |
- | - | ポンチェプモイ | - |
チツチセホウシナイ (モイレアトエ) | モエレマートコ | ポンモイレモイ | 貰人 |
- | - | カ子パコ | - |
エチヤンシト | エシヤシレエト | エサシト | 恵茶人? |
どうやら「ポロチェプモイ」と「大ゼンポージ」は同一の場所を指していたようで、初航蝦夷日誌の「ヲン子ゼンホウジ」は東西蝦夷山川地理取調図の「ホロチエフホフシナイ」のこと……と見て良さそうな感じです。また「チツチセホウシナイ」の別名が「モイレアトエ」とのこと。「チツチセホウシナイ」は意味不明ですが、おそらくどこかに誤字が紛れてそうな気がします。
「魚が沸き立つ」か「小魚」か
本題の「仙鳳趾」ですが、戊午日誌 (1859-1863) 「東部能都之也布誌」には次のように記されていました。過て
ホンチエツフホフウ
小川海岸え到りて砂浜え落るとかや。ホンは小き、チエツフホフシは魚類多く、鍋の涌立が如しと云儀。また平山しばしを過て
ホロチエツフホフシ
小川也。西岸え落て砂浜になる由。又其海岸峨々たる岩岸なりと。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.559 より引用)
これは chep-pop-us-i で「魚・沸き立つ・そうである・ところ」と読めそうでしょうか。あるいは {chep-po}-us-i で「{小魚}・多くいる・ところ」とも読めそうで、「ゼンポージ」はどちらかと言えば後者のほうに近そうにも思えますが、松浦武四郎が前者で記録している以上、{chep-po}-us-i は一旦却下でしょうか……?永田地名解の chep-moy は「魚・入江」と読めますが、これも chep-ot-moy の -ot が省略されたか、chep-us-moy の -us が省略されたか……その辺のような気がします。chep-ot-moy であれば「魚・群在する・入江」となりますね。
また chep-ot-moy であれば {chep-po} 説も一歩後退しそうな感もあるので、やはり素直に chep-pop-us-i で「魚・沸き立つ・そうである・ところ」と解して良さそうな気がしてきました。pop は本来は「あったかい」や「沸騰する」という意味ですが、ここでは「わんさか出てくる」と言ったニュアンスで解するのが良さそうです。
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