2023年2月5日日曜日

北海道のアイヌ語地名 (1011) 「裙別台・宇内丘・辺呂台」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

裙別台(くんべつだい)

ori-{chi-kus}-pet?
坂・{横切っている}・川
(? = 記録はあるが疑問点あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
陸上自衛隊の「矢臼別演習場」(自衛隊では最大規模の演習場)の中に「裙別台くんべつだい」という名前の二等三角点が存在します。「風蓮川」には「ノコベリベツ川」という名前の南支流がありますが、「裙別台」三角点は「ノコベリベツ川」の北支流(西支流)に当たる「三郎川」の源流付近に位置しています。

「三郎川」は、明治時代の地形図では「オリチクンペツ」あるいは「オソチクンペッ」と描かれていました。「裙別台」という三角点名は、この川名から来ていると見て良さそうに思えます。

「オリチクンペツ」という音からは ori-{chi-kus}-pet で「坂・{横切っている}・川」あたりの解が想像できるでしょうか(色々と苦しいのも事実ですが)。ただ「東西蝦夷山川地理取調図」(1859) や「東蝦夷日誌」(1863-1867) を見てみると、どうやら「シユフンナイ」と描かれた川が現在の「三郎川」のように思われるのですね。

「竹四郎廻浦日記」(1856) には次のように記されていました。

又右の方を本川三里も上らば左右に又別れ、右はフウレンイトコ、左りノコベリベツ上に到りて沼有由なり。其中程より右の方シユフンナイ、ベンシユウモツヘツ、ヲラウシヘツ等此辺にては本道往来なるべし。惣て平山、槲・椴・ケ子の木立、下草は萩・熊さゝ多し。
松浦武四郎・著 高倉新一郎・解読「竹四郎廻浦日記 下」北海道出版企画センター p.428-429 より引用)
「東西蝦夷山川地理取調図」には「ノコヘリヘツ」の北支流に「シユフンナイ」が描かれていて、上流で「ヘンシユフンナイ」と「ホンヘンシユフンナイ」に枝分かれしているのですが、「ベンシユウモツヘツ」は「ヘンシユフンナイ」のことである可能性もありそうです。pen-supun-ot-pet で「川上側の・ウグイ・群在する・川」が訛った形、だったかもしれません。

となると「オソチクンペッ」も -ot が含まれた形なのではないか……と考えたくなります。supun-ot-pet に近い解釈ができないか、色々と考えてみたのですが、os で「雌魚」を意味するとあるので、os-ot-kunne-pet で「雌魚・群在する・暗い・川」あたりの可能性は無いだろうか……と。

ただ、これまで os で「雌魚」を意味する地名を見かけたことがありませんし、kunne-pet という解も無理やり後付け感が半端ないので、かなり無理筋だったでしょうか。となると「ウグイが群在する川」という名前をあっさり捨てた……ということになるのですが、これも意図的な秘匿(隠蔽)と考えれば筋が通る……かも?

宇内丘(うないおか)

oo-nay?
(水嵩が)深い・川
(? = 記録はあるが疑問点あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
矢臼別演習場」と「風蓮川」の北東、「基線」のすぐ近くの丘にある四等三角点の名前です(標高 51.1 m)。明治時代の地形図には殆ど川名が描かれていないため、「東西蝦夷山川地理取調図」(1859) に描かれた川と現在の川名のマッチングが必要になるのですが、「宇内丘」三角点の東を流れる「第 12 風蓮川」が、かつては「ヘンケヲホナイ」と呼ばれた可能性がありそうに思えます。

「ヘンケヲホナイ」は penke-ooho-nay で「川上側・深い・川」と読めますが、ここでちょっと問題が。アイヌ語の地名で「深い」を意味する語は複数あって、「深く掘れた地形」を意味する rawne と、「水嵩が深い」を意味する ooho に大別されます。ただ、「第 12 風蓮川」の地形を見る限り、ooho ではなく rawne のほうが相応しいように見えるのですね(どう見ても「水嵩が深い」ようには思えないので)。

ただ、oohorawne の使い分けが怪しい例は他にもあって、たとえば斜里町の「オオナイ川」も「水の深い川」だとされていますが、実際には「深く掘れた谷」を流れると呼べそうな川です。

「宇内」は oo-nay で「(水嵩が)深い・川」が転訛したもの……ではないかと思われますが、あるいはもしかしたら ut-nay で「肋・川」かもしれません。河川の形状からは ut-nay と考えても何ら不思議はないのですが、傍証がゼロになるのがちょっと厳しいところです。

辺呂台(ぺろだい)

{pero-ni}-tay
{ミズナラの木}・林
(記録あり、類型あり)
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
風蓮川上流部、南支流の中風蓮川の源流部にほど近いところに「辺呂台ぺろだい」という名前の三等三角点があります(標高 133.0 m)。

明治時代の地形図を見てみると、三角点のあるあたりに「ペロニタイ」と描かれていました。{pero-ni}-tay で「{ミズナラの木}・林」だと考えられますが、pero-ni ではなく pero でも「ミズナラ」を意味するので、pero-tay で「ミズナラ・林」と呼ぶ流儀もあったのかもしれません。

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