(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
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美留和(びるわ)
(?? = 典拠あるが疑問点あり、類型未確認)(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
弟子屈町域のほぼ真ん中あたりの地名で、同名の山と川があるほか、JR 釧網本線にも同名の駅があります。ということで、まずは「北海道駅名の起源」を見てみましょうか。美留和(びるわ)
所在地 (釧路国)川上郡弟子屈町
開 駅 昭和 5 年 8 月 20 日
起 源 駅の近くにある美留和山という小山を、アイヌ語で「ペㇽケ・ヌプリ」(さけた山)とも、「ペㇽケ・イワ」(さけた岩山)とも呼び、そのふもとを流れる川を「ペㇽケ・イワ・ナイ」と呼んでいたのを、ペレイワナイから、ペルアとなり 「美留和」という漢字に定着したものである。
(「北海道駅名の起源(昭和48年版)」日本国有鉄道北海道総局 p.163 より引用)
ふむふむ。現在「美留和山」と呼ばれる山が perke-iwa で「裂けた・山」と呼ばれていて、その麓を流れる川を perke-iwa-nay と呼んでいたのが「ペルア」に訛った……という説ですね。ところが、昭和 29 年版の「北海道駅名の起源」では、全く違う解が記されていました。
美留和駅(びるわ)
所在地 釧路国川上郡弟子屈町
開 駅 昭和五年八月二十日
起 源 アイヌ語「ペル・ワアン・ペッ」(泉池・ある・川)から出たものであると思われる。
(「北海道駅名の起源(昭和 29 年版)」草風館『アイヌ語地名資料集成』p.404 より引用)
{pe-ru}-wa-an-pet で「{泉}・に・ある・川」ではないか……と言うのですね。この解は永田地名解を参考にしたようで、ネタ元と思しき永田地名解には次のように記されていました。Pe rua ペ ルア 泉 清泉岩中ヨリ涌出スpe が「水」だというのは理解できるのですが、rua の正体が良くわからないですね。「雨」を意味する ruanpe という語があり(方言かも)、久保寺逸彦さんの「アイヌ語・日本語辞典稿」には ruan kamui ne で「昇天ノ神ノ如ク」とあるので、ruan には「天に上る」という意味があるのかもしれません。
どうやら perke-iwa 説は更科源蔵さんが唱えたようで、「アイヌ語地名解」や「北海道地名誌」にも同じ解釈が記されていました。どちらの解釈も個人的には納得の行くもので、さてどうしたものか……。
果たして「パンケヌプリ」は実在したか
美留和山は美留和駅の南南東に位置する標高 401.1 m の山ですが、頂上付近には「「ペンケヌプリ」(川上側の山)があるのなら「パンケヌプリ」(川下側の山)があっても良い……というか普通はある筈なんですが、近くにはそれらしい山が見当たりません。ただ美留和山の南南西に「
明治時代の地形図を素直に読み解くと、山名は「ペンケヌプリ」で川名が「ペルア」だったことになりますが、これだと「似て非なる名前がたまたま並んだ」ということになりますね。
それに異を唱えたのが更科さんで、「ペンケヌプリ」は「ペレケヌプリ」だった……という考え方です。山名は「ペㇽケヌプリ」が「ペンケヌプリ」に化けて、川名は「ペㇽケヌプリ」の別名「ペㇽケイワ」に由来する「ペㇽケイワナイ」が「ペルア」に化けた……ということになるでしょうか。
「裂けた山」と「枝分かれした谷」
「東西蝦夷山川地理取調図」には「美留和」に相当する山や川を確認できませんが、戊午日誌「東部久須利誌」には次のように記されていました。また少し上りて東岸
ヘ リウ
川巾五六間も有りと云。此川の奥弐十丁計に一ツの沼有、其上に一ツの丸山有りしによつて号ると聞侍るなり。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.438 より引用)※ 原文ママ
これまた、いくつもの可能性を想起させる記録ですね。「この川の奥に沼あり」は {pe-rua} で「泉」説を裏付けているようにも思えますし、一方で「その上に丸山があることにより命名」からは、やはり川名が山名に由来するようにも思わせます。ただ、perke-iwa が「ヘリウ」あるいは「ピルア」に化けたというのも少し難易度が高そうに思えるので、もしかしたら pir-aw で「傷・枝」とかの可能性があったりしないかな……と。美留和山の西側には三つに枝分かれした谷があり、これを pir-aw と呼んだのではないかという想像です。
この考え方だと「ペンケヌプリ」あるいは「ペレケヌプリ」と呼ばれた理由が説明できないですが、perke-nupuri(裂けた山)も pir-aw(枝分かれした谷)も同じものを指していると思われるので、二通りの呼び方があったんじゃないかなぁ、と……。
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