2022年10月16日日曜日

北海道のアイヌ語地名 (979) 「イクルシベ山・サマッケヌプリ」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

イクルシベ山

yuk-ru-pes-pe
鹿・道・それに沿って下る・もの(川)
(典拠あり、類型あり)
岩田主山の南に聳える標高 727 m の山です。イクルシベ山の西には尾札部川の支流(名称不詳)が流れているのですが、明治時代の地形図では、この支流のあたりに「ユクルペシュペ」と描かれていました。

更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」には次のように記されていました。

 イクルシベ山
 尾札部川の奥にある山。元々はこの山から流れる尾札部川の支流の名で、ユㇰ・ルペㇱペ(鹿の越す路)といい、ここを越して鹿が阿寒の山からおりて来たり越えて行ったりした。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.257 より引用)
あー、やはり。これから書こうと思っていたことを完全に先に言われてしまった感がありますが、yuk-ru-pes-pe で「鹿・道・それに沿って下る・もの(川)」と考えて良いかと思われます。更科さんが記した通り、もともとは西側の支流の名前で、それが多少変化した形で山の名前に転用された……と見て良さそうですね。

サマッケヌプリ

samatki-nupuri
横になっている・山
(典拠あり、類型あり)
岩田主山やイクルシベ山の西側を流れる「尾札部川」を遡ると、イクルシベ山の西あたりで西に向きを変えて、最終的には津別町との境界を構成する分水嶺にたどり着きます。「サマッケヌプリ」は「コトニヌプリ」と「オサッペヌプリ」の南にある標高 897.8 m の山で、頂上付近には「様毛山」という名前の一等三角点があります。

意味するところは明瞭で、「北海道地名誌」には次のように記されていました。

 サマッケヌプリ 897.9 ㍍ 屈斜路湖の西南,津別町との境界をなす山。アイヌ語で横になっている(川に直角にのびている)山の意。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.684 より引用)
samatki-nupuri で「横になっている・山」と考えて良いかと思います。似たような地名は道内の各所に存在していて、永田地名解ではその多くが samatke と綴られていますが、辞書類では samatki と表記されるのがお多いようです。「サマッケ」という読み方は永田地名解の影響を受けたものである可能性も考慮すべきかもしれません。

鎌田正信さんの「道東地方のアイヌ語地名」にも、次のように記されていました。

 サマッケ・ヌプリ(samakke-nupuri 横臥している・山)の意で、屈斜路湖尻のコタン集落付近から見ると、枕をして寝ているように見える山である。
(鎌田正信「道東地方のアイヌ語地名【国有林とその周辺】」私家版 p.348 より引用)
屈斜路湖畔のコタン集落からサマッケヌプリまでは直線距離で 10 km ほどありますが、手前にある山よりもやや高いので湖畔からも見える……ということのようです。

屈斜路湖畔からの眺めをストリートビューで見てみると……


手前のちょい右に見える形の良い山が「三角山」(=チセ子ノホリ)で、中央奥に見えるのが「コトニヌプリ」だと思うのですが、仮に「コトニヌプリ」がつま先だとすると、左のほうに「頭」に相当する山が見えるような……。

どうやらこの台形状の山が「サマッケヌプリ」だと思われるのですが、あー、これは確かに寝ているように見えますね! samatki-nupuri で「横になっている・山」と呼んだのも納得するしかないように思われます。

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