2022年9月11日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (969) 「アタックチャ川・タテクンナイ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

アタックチャ川

acha-kucha?
伯父(叔父)・山小屋
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
日曜のクイズ番組と言えばやっぱり児玉清ですよね(いつの時代だ)。「アタックチャ川」は斜里川の西支流(南支流)で、上流部には「緑ダム」があります。

「東西蝦夷山川地理取調図」には「アタツクシヤ」という名前の川が描かれています。明治時代の地形図には「アタツクチヤ」と描かれているので、ほぼ同じ形で現在まで残っていると言えそうでしょうか。

永田地名解には次のように記されていました。

Atat kucha   アタッ クチャ   魚肉ヲ背割シテ乾ス小屋 「アタッ」トハ魚肉ヲ二ツニ縦切スルヲ云フ細切スルニアラズ
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.497 より引用)
atat という語は今まで見聞きした記憶が無いのですが、「アイヌ語千歳方言辞典」には次のように記されていました。

アタッ atat 【名】 魚を川の流れに何日かさらしてから三枚におろし、 さらにそれを縦四つに細く切り裂いて干したもの。
(中川裕「アイヌ語千歳方言辞典」草風館 p.9 より引用)
もしかして「鮭とば」みたいなものなんでしょうか。そういや「鮭とばイチロー」は今も絶賛販売中みたいですね。

それにしても、魚肉の干物であれば何もこんな山の中で……というか、そんなに場所を選ばないような気もする(=地名となる必然性に欠ける)のですが……。「斜里郡内アイヌ語地名解」には次のように記されていました。

 アチャクチャ(acha-kucha 伯父の・山小屋)或は「アタックチャ」(atat-kucha 鮭を背割にして乾すものを造つた小屋)。
知里真志保知里真志保著作集 3『斜里郡内アイヌ語地名解』」平凡社 p.256 より引用)※ 原文ママ
そう言えば「アチャパチャノチャ」という童謡があったな……と思ったのですが、あれは北欧ラップランドの民謡なのだとか。「ラップランド」という呼称も実は蔑称であるらしく、使用にあたっては慎重になるべきとのこと。

本題に戻りますが、やはり知里さんも「鮭の干物をつくる小屋」は変だと感じたのか、acha-kucha で「伯父(叔父)・山小屋」ではないかと考えたようですね。「伯父さんの山小屋」というのもちょっと変な感じがしますが、「ナンバー 2 の山小屋」と考えることができるかもしれません。

あるいは aw-ta-kucha で「隣・の・山小屋」あたりの可能性もあるかな、とも……。ニュアンスとしては acha-kucha と同じで、「隣の山小屋」は「第二の山小屋」と言った風に捉えられるかな、と。

タテクンナイ川

kutek-un-nay
仕掛け弓を仕掛ける木・ある・川
(典拠あり、類型あり)
「アタックチャ川」の 0.8 km ほど上流側で斜里川に合流する東支流(北支流)です。「東西蝦夷山川地理取調図」にはそれらしい川が見当たらず、永田地名解にもそれらしい記録が見当たりません。

ただ、明治時代の地形図には「クテクンナイ」とあります。「斜里郡内アイヌ語地名解」にも次のように記されていました。

 クーテクンナイ(斜里川左支流) 「クーテク・ウン・ナイ」(ku-tek-un-nay 仕掛弓の垣のある沢)。
(知里真志保「知里真志保著作集 3『斜里郡内アイヌ語地名解』」平凡社 p.257 より引用)
kutek-un-nay で「仕掛け弓を仕掛ける木・ある・川」と見て良さそうですね。ほぼ同名の「クテクンベツ川」が標津町にあるほか、標茶町の「クニクンナイ川」も同型だと考えられます。あと足寄町の「ウッテキウンナイ川」も同型じゃないかと思うのですが……。

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