2022年6月11日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (942) 「羅萌」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

羅萠(らむい)

{rarma-ni}-us-nay?
{イチイの木}・多くある・川
ra(p)-oma-i??
翼・そこにある・もの(川)
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)(?? = 典拠あるが疑問点あり、類型未確認)
JR 釧網本線の「中斜里駅」の西に「南斜里駅」という駅があったのですが(2021 年 3 月に廃止)、地理院地図では駅のあったあたりの南側(川向かい)に「羅むい」と表示されています。これは斜里町の字だと思われるのですが、何故か住所としては使用されていないようで、斜里町の郵便番号一覧には記載がありません。

また、かつて南斜里駅があった所から 0.6 km ほど東、道道 1000 号「富士川上線」(南九号)と西一線の交点付近に「羅萌らむい」という名前の四等三角点が存在します(標高 9.0 m)。ただ、戦前に測図された陸軍図では斜里川の南側に「羅萠」とあり、川の北側には「川上」とあるので、やはり本来の「羅萠」は川の南側だったようにも思われます。

永田地名解にはそれらしい地名(川名)の記載が見当たらないのですが、知里さんの「斜里郡内アイヌ語地名解」には次のように記されていました。

 ラモイ 不明。カムイ,すなわち熊の訛りだとも云う。
(知里真志保「知里真志保著作集 3『斜里郡内アイヌ語地名解』」平凡社 p.256 より引用)
むむむ。永田地名解に「?」と言われるのはしょっちゅうですが、知里さんに「不明」と言われるのは滅多にないことのような……。

「ラムイ」? 「タモイ」?

明治時代の地形図には「羅萠」の南の谷の位置に「タモイ」という川が描かれていました。「ラムイ」ではなく「タモイ」が本来の形だとすれば、tam-o-i で「刀・そこにある・もの(川)」と読めるでしょうか。地名に「刀」というのは意味不明な感じもありますが、川(谷)の西側の台地か、あるいは台地を刻む川そのものを「刀」に見立てた……というストーリーを考えたくなります。

逆に「タモイ」が「ラムイ」の訛った形で、「ラムイ」が本来の形に近いとしたならば、ra(p)-oma-i で「翼・そこにある・もの(川)」と読めそうな気がします。これは支笏湖畔の「モラップ」からの類推でもあるのですが、川の両側に高さ 50 m ほどの台地があることを指して「両翼」に見立てたのでは……という考え方です。

「ラルマニウシナイ」

「東西蝦夷山川地理取調図」には、この「ラムイ」あるいは「タモイ」に相当する地名は見当たらないのですが、「ウエンヘツ」(斜里新大橋のあたり?)と「ルウヘツチヤウシナイ」(清里町駅の北あたり)の間の左支流として「ラルマニウシナイ」という川が描かれていました。

「竹四郎廻浦日記」には次のように記されていました。

     ライベツ
此辺谷地多く道甚(悪)し。ライは谷地同様と云訳。ベツは川也。此辺土蘇木(夷言ラルマニ)多し。甚巨大なるは一囲二囲に及ぶもの有。然し囲に合ては長(く)のびざるもの也。土人好で此実を喰する也。此辺平地谷地様の処多し。
 また此処より平川を越て東の方にラルマニノホリと言て土蘇木のみ有る山有と云り。
松浦武四郎・著 高倉新一郎・解読「竹四郎廻浦日記 下」北海道出版企画センター p.395 より引用)
当時の交通路は律儀に斜里川沿いを遡ったのではなかったようで、「ライベツ」の先の「ルウベツチヤウシナイ」(=清里町駅の北あたり)で「此所にて本川端に出たり」とあります。これは斜里の市街地から清里町駅に向かってショートカットしたことを示唆しているように読めますが、ここでのポイントは「東の方にラルマニノホリ」で、これは東のほうに rarma-ni、すなわち「オンコ(イチイ)の木」の繁る「山」がある……ということになります。

この「ラルマニノホリ」は、斜里川の東支流である「ラルマニウシナイ」と関連があると思われるのですが、「斜里川の東支流」と「清里町駅の東側の山」という条件を満たすのは「羅萠の南の谷と台地」しか無い……ということになるでしょうか。

改めて知里さんの「斜里郡内アイヌ語地名解」を見てみると、「ラモイ」の上に「ラルマニウㇱナイ」という項がありました。

 ラルマニウㇱナイ 語原「ラルマニ・ウㇱ・ナイ」(rarmani-us-nay アララギ・群生する・沢)。
 ラモイ 不明。カムイ,すなわち熊の訛りだとも云う。
(知里真志保「知里真志保著作集 3『斜里郡内アイヌ語地名解』」平凡社 p.256 より引用)
「アララギ」=「イチイ」なので、{rarma-ni}-us-nay は「イチイの木・多くある・川」と考えて良さそうですね。

「ラモイ」と「ラルマニウㇱナイ」

ということで、「タモイ」あるいは「ラムイ」の意味は……という本題に戻るのですが、一つは「ラルマニウンナイ」がざっくりと略されたという可能性が考えられるでしょうか。ただ、「斜里郡内アイヌ語地名解」に「ラルマニウㇱナイ」と「ラモイ」が併記されているので、「ラルマニウㇱナイ」と「ラモイ」は別物である可能性も残ります。

「ラルマニウㇱナイ」は川の名前で、「ラモイ」が「ラルマニウㇱナイ」の河口付近の地名だと考えると、「ラモイ」を ra(p)-oma-i で「翼・そこにある・もの(川)」と見ることも一応は可能でしょうか。結局は同じ川の名前じゃないか……というツッコミもあろうかと思われますが……。

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