2022年3月19日土曜日

北海道のアイヌ語地名 (918) 「タツニナイ林道・ニカルナイ沢・エイコの沢」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

タツニナイ林道

{tat-ni}-nay
{樺の木}・川
(典拠あり、類型あり)
石狩川には「大函」と呼ばれる難所があり、大函の上流側で「ニセイチャロマップ川」が東から石狩川に合流しています。ニセイチャロマップ川には「ニセイチャロマップ第一川」「ニセイチャロマップ第二川」「ニセイチャロマップ第三川」などの支流があり、「ニセイチャロマップ第二川」沿いに「タツニナイ林道」が存在しています。

これは、もしかしたら「ニセイチャロマップ第二川」はかつて「タツニナイ」と呼ばれていたのではないか……と考えたくなるのですが、「北海道地名誌」に次のような記述がありました。

 タッツニナイの沢 左側にニカルナイ沢が枝分れしている沢。樺木沢の意。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.325 より引用)
うっ。「左側にニカルナイ沢が枝分れしている沢」は明らかに「ニセイチャロマップ第二川」のことですので、やはりかつては「タツニナイ」と呼ばれていたみたいですね。「タツニナイ」は {tat-ni}-nay で「{樺の木}・沢」と見て良いかと思われます。

ニカルナイ沢

nikar-nay?
はしご・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
かつて「タツニナイ」あるいは「タッツニナイの沢」と呼ばれていたと考えられる「ニセイチャロマップ第二川」に西から合流する支流の名前です。この川についても「北海道地名誌」に次のように記されていました。

 ニカルナイ沢 タッツニナイ沢の左枝流の沢。ニカルは梯子のこと。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.325 より引用)
確かに nikar は「はしご」という意味で、知里さんの「地名アイヌ語小辞典」にもそのように記載されています。羽幌には「ニカリウシナイ川」という川があり、また積丹に「ニカルシ」という地名があったことが永田地名解に記されているほか、浜頓別の「鬼河原川」も「オ子ニカラマプ」だったと考えられます。

これらの川の共通点を探れば「はしご川」がどのようなものだったか明らかになりそうですが、ちょっとなんとも言えないなぁ……というのが正直なところです。全てのケースで本当に梯子はしごが架けてあったというのも無理がありそうな気がするのですが、沢を登るにあたって梯子のような役割を果たす何かがあった……と言ったところでしょうか。

例によって完全な想像ですが、ところどころで流木が引っかかっていて、その流木を踏み台にすると沢を登りやすいとか、あるいは梯子ではなく岩が階段代わりに使えそうな配置になっているとか、そういった特性があったんじゃないかなぁと。

これまでは nikar ではなく ni-kur で「木陰」ではないかとか考えたこともありましたが、これだけ「ニカル」の例があるとなると素直に解釈すべきに思えてきました。nikar-nay で「はしご・川」と見て良いのかな、と思います。

エイコの沢

emko???
水源
(??? = アイヌ語に由来するかどうか要精査)
石狩川の最上流部に「ヤンベタップ川」という西支流があるのですが、ヤンベタップ川の北支流として「エイコの沢」というちょっと変わった名前の川が流れています。

この川も「地理院地図」での河川名と「国土数値情報」の河川名に異同があるようで、国土数値情報では「ヤンベタップ一沢川(エイエノ沢川)」となっているようです。ただ近くを通る林道の名前は「エイコの沢林道」のようなので、「エイコの沢」という名前で認識されているのでは……と想像しています。

ここに来て俄然「頼れる兄貴」感を出してきた「北海道地名誌」では、次のように言及されていました。

 エイコの沢 ヤンベタップ川の枝流の沢。意味不明。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.326 より引用)
兄貴イィィィ……! 「頼れる兄貴」に逃げられてしまいましたが、これは「ちょっとは自分で考えてみろ」ということなんでしょうか。

とりあえず「エイエノ沢川」ではなく「エイコの沢」のほうが元の形に近そうだ……として、真っ先に考えたのが「エイコ」が emko ではないかという可能性です。emko には「半分」という意味があるほか、「水源」や「川の奥のほう」という意味もあるので、「水源の沢」と呼んだ……としてもそれほど変ではないかと思います。

このあたりの石狩川の支流(支流の支流も含む)はいずれも「水源」と呼ぶに相応しいので、何故その中から「エイコの沢」が「水源の沢」と呼ばれるようになったのか……という点も気になるところですが、他の支流と比べて特色が無かった……という身も蓋もない考え方が可能かもしれません。

ついでに珍説をひとつ

また、これは更に荒唐無稽な仮説ですが、ヤンベタップ川の北東、大雪ダムのダム湖である「大雪湖」に注ぐ「由仁石狩川」という川があります。この川は陸軍図では「ユーニイシカリ川」と描かれているのですが、「ニ」の字がどことなく「コ」に見えてしまいます。また「ユ」は元々「エ」と似ているので、「ユーニ」を「エーコ」と見間違えた上で別の川の名前に転用してしまったのではないか……と考えてみました。

さすがに蓋然性が乏し過ぎるとは思いますが、ちょっと気になったので、備忘として記しておこうと思います。

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