2022年2月5日土曜日

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北海道のアイヌ語地名 (906) 「珍別・瑠辺蘂川・オマン川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

珍別(ちんべつ)

o-ichan-un-pet???
河口・鮭鱒の産卵場・ある・川
(??? = アイヌ語に由来するかどうか要精査)
地名と言うものは様々な理由でちょくちょく変化してしまうものですが、地名と比べて川の名前は昔の名前のまま残ることが多い傾向にあります。そして三角点の名前も川名と同じくらい昔のまましれっと残っていることが多いのですが、この「珍別」もそんな三角点の一つ……かもしれません。国道 452 号が美瑛川を渡る「旭稜橋」の西北西にある、標高 275.1 m の三等三角点の名前です。

「──別」と言うからには川名のように思えますが、「東西蝦夷山川地理取調図」や明治時代の地形図にはそれらしき川が見当たりません。ただ大正時代に測図された「陸軍図」には、三角点のある山の北斜面あたりに「オチャンベツ」という地名が描かれていました。

「オイチャヌンペ」と「オチャンベツ」

三角点のすぐ西で「オイチャヌンペ川」が美瑛川に合流しています。「オイチャヌンペ」は o-ichan-un-pe で「河口・鮭鱒の産卵場・ある・もの(川)」と読めますが、「オチャンベツ」と「オイチャヌンペ」がどちらも似た意味だとすると、何故末尾が -pet-un-pe で異なるのか、ちょっとわからなくなってきますし、「オチャ」と「オイチャ」で異なるのも妙に思えます。

ただ、現在「ルベシベ三線川」と呼ばれている川(美瑛川の南支流)があるのですが、この川は明治時代の地形図には「オイチャンウンナイ」という名前で描かれていました。この「オイチャンウンナイ」が別の地形図では「オチャウンナイ」となっていたので、「オイチャンウンペ」が「オチャンベツ」に化けたという可能性も考えられそうな気がしてきました。

もしかしたら「オイチャンウンペ」の別名が「オイチャンウンペツ」だったかもしれません。その場合は o-ichan-un-pet で「河口・鮭鱒の産卵場・ある・川」と読めそうです。

瑠辺蘂川(るべしべ──)

ru-pes-pe
路・それに沿って下る・もの(川)
(典拠あり、類型多数)
美瑛川の南支流(西支流)の名前です。「東西蝦夷山川地理取調図」には「ルベシベ」という名前の川が描かれていました。また永田地名解にも次のように記されていました。

Rupesh nai     ルペㇱュ ナイ    熊徑川 直譯路川ナリ熊ノ徑過スルヲ以テ名ク
O ichanunbe     オ イチャヌンベ   鱒ノ産卵場
Rupeshbe nai   ルペㇱュベ ナイ   行路 空知川ヘ下ル路ナ
Pipa ushi     ピパ ウシ      沼貝川
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.52-53 より引用)※ 原文ママ
あれ? 似て非なる「ルペㇱュ ナイ」と「ルペㇱュベ ナイ」があるようですが、「ピパ ウシ」(=美瑛美馬牛川)の手前にある「ルペシュベ ナイ」が現在の「瑠辺蘂川」のことでしょうか。

山田秀三さんの「北海道の地名」には、次のように記されていました。

富良野市街から富良野川を溯り,その西側支流のトウラシ・エホロカアンベツ「(道が)上る・エホロカンベツ川」を上って低い丘陵を越えたら,いつのまにか留辺蘂川に出たので,それを下り,美瑛川に沿って旭川に行ったことがある。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.111 より引用)
ということで、この川は「トラシエホロカンベツ川」と対になる存在の ru-pes-pe で「路・それに沿って下る・もの(川)」だったようです。turasi が「それに沿ってのぼる」で pes が「それに沿って下る」なのですが、ネーミングが北(旭川方面)に向かう前提になっているのは、なにか理由があるのでしょうか……?

オマン川

e-pana-oma-{ru-pes-pe}
頭・川下のほう・そこに入る・{瑠辺蘂川}
(典拠あり、類型あり)
瑠辺蘂川の西支流で、美瑛町美園のあたりを流れています。アイヌ語で oman は「行く」あるいは「山の方へ行く」となりますが、ちょっと抽象的すぎて違和感があります。

明治時代の地形図を見ると、現在の「オマン川」の位置に「エパナオマンルペシュペ」という名前の川が描かれていました。ああ、これだったら納得ですね。

知里さんの「上川郡アイヌ語地名解」には次のように記されていました。

エパナオマルペシペ(E-pana-oma-Rupeshpe「頭が・浜の方・に向つている・ルペシペ川」)ルペシペ川の枝川。
(知里真志保「知里真志保著作集 3『上川郡アイヌ語地名解』」平凡社 p.326 より引用)※ 原文ママ
e-pana-oma-{ru-pes-pe} で「頭・川下のほう・そこに入る・{瑠辺蘂川}」と解釈できそうですね。ただこれだと「オマ川」になりそうな感じもするので、e-pana-oman-{ru-pes-pe} で「頭・川下のほう・行く・{瑠辺蘂川}」だったのかもしれません。

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