(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。
クワウンナイ川
(??1 = 典拠あるが疑問点あり、類型未確認)(??2 = 典拠未確認、類型あり)
美瑛町と東川町の境界となっている「天人峡」の中程、天人峡温泉のやや西側で忠別川に合流している南支流の名前です。川を遡った先には「「クワウナイ」は何処に
「東西蝦夷山川地理取調図」には、忠別川の最上流部に「クワウナイ」という名前の川が描かれていました。また丁巳日誌「再篙石狩日誌」には次のように記されていました。少し上
ヘタヌ
ヘタヌは二股のことなり。右の方少し小さし。是を
クワウナイ
と云なり。左りの方則本川すじ也。此辺皆平
シチユクベツ
と云、此辺両岸惣てヒラにて峨々たる高山なり。此フトより凡弐里も上え上りし処に
ホロソウ
と云て大滝有りと聞り。其源より岳のうしろはトカチ川すじに当るとかや。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.282 より引用)
前後の文脈や実際の地形を考慮すると、「ヘタヌ」は現在の「クワウンナイ川」と「忠別川」の合流地点だと考えて良いかと思われます。となると「ホロソウ」は「羽衣の滝」かと考えたくなるのですが、クワウンナイ川と忠別川の合流点(ヘタヌ)から羽衣の滝までは 2.2 km ほどしか無いのがちょっと引っかかります(「およそ二里」だとすれば約 7.8 km ほど離れていることになります)。「クワウンナイ川」と「化雲沢川」
また「其源より岳のうしろはトカチ川すじに当るとかや」とありますが、忠別川水系で十勝川の流域と接しているのは「クワウンナイ川」と、東側を流れる「化雲沢川」しかありません。仮に「ヘタヌ」からクワウンナイ川を南に 7.8 km(=およそ二里)ほど遡ったところに大きな滝があるのであれば、「クワウナイ」と「シチユクベツ」の左右を間違えた可能性も出てきますが、良く考えてみると「忠別川」を遡って「化雲沢川」に入った場合も「水源の向こうは十勝川水域」になるので、やはりこのあたりの記述(聞き書き)は大きく間違っていないような気もしてきました。
美瑛町と新得町の境界(「トムラウシ山」の北)には「化雲岳」という標高 1,954.5 m の山が聳えています。化雲岳の西が「クワウンナイ川」流域で、化雲岳の北が「化雲沢川」の流域です。さてどっちが松浦武四郎の言う「クワウナイ」だったのか……と思って細かく検討してみたのですが、素直に「クワウンナイ川」が「クワウナイ」だったと考えて良さそうかな、と思えてきました。
「狩人の入る沢」説
肝心の地名解ですが、知里さんの「上川郡アイヌ語地名解」には次のように記されていました。クワウンナイ(Kuwa-un-nai 「狩杖・入る・沢」) 狩人の入る沢の義。「険阻ニシテ杖ニ依ラザレバ行ク能ハズ」と説くものがある(永田氏『地名解』)。右,枝川。
(知里真志保「知里真志保著作集 3『上川郡アイヌ語地名解』」平凡社 p.329 より引用)
kuwa は「杖」を意味するようで、kuwa-un-nay で「杖・入る・川」と読めます。kuwa は「墓標」とも解釈できるようで、「墓標・ある・川」と読めたりしないか……と考えてみたのですが、ちょっと違和感が残るでしょうか。「クワウンナイ」は「カーウンナイ」か?
山田秀三さんの「北海道の地名」には、次のように記されていました。切替英雄氏がこの沢を溯られて,土地の人はカーウンナイのように呼んでいると教えられた。この川の上に化雲岳があって,何の意かと思って来たが,そのカーウンナイの上の山の意だったろうか(和人のつけた名らしいが)。音だけでいうならカー・ウン・ナイは「わな・が・ある・沢」となるが,ここは昔からクワ・ウン・ナイだったらしい。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.109 より引用)
「クワウンナイ」は「カーウンナイ」だった可能性があるのではないか、という指摘ですね。確かに ka-un-nay は「罠・ある・川」と読めますが、「上・に入る・川」とも読めそうな気もします(他ならぬ「大雪山」にも「ヌタプカウシペ」という別名がありますが、それと似たような考え方です)。化雲岳(かうんだけ)
(??1 = 典拠あるが疑問点あり、類型未確認)(??2 = 典拠未確認、類型あり)
今更改めて立項しなくても良いんじゃないか……という説もありますが(汗)。美瑛町と新得町の境界でトムラウシ山の北、五色ヶ原の西に位置する山の名前です。北西に「小化雲岳」が連なっていて、「小化雲岳」の南西側が「クワウンナイ川」の流域で北東側が「化雲沢川」の流域です。
地元の人は「クワウンナイ」を「カーウンナイ」と発音する……という話もありましたが、「クワウンナイ川」の源流部の山を「化雲岳」と呼び、その北東側の川を「化雲沢川」と呼ぶようになった……と言ったところでしょうか。
ややこしいことに「クワウンナイ川」の支流にも「カウン沢」があり、「カウン沢」を遡って分水嶺を越えた先に「化雲沢川」が存在します。
山の名前と川の名前が事実上ほぼ同じで、どちらがオリジナルなんだろう……と思ったりもしますが、道内では圧倒的に「川名由来の山名」が多いということもあり、ここも同様に考えられるようです。
kuwa-un-nay で「杖・入る・川」とされますが、あるいは ka-un-nay で「上・に入る・川」なのかもしれません。後者の場合は自己言及的な名称と言うことになりますが、似たような例は他にもいくつかあったかと思います。
www.bojan.net
Copyright © 1995- Bojan International
0 件のコメント:
コメントを投稿