2021年11月13日土曜日

北海道のアイヌ語地名 (883) 「ヌポロマポロ川・ケナシポロ川・イソサンヌプリ山」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

ヌポロマポロ川

nup-or-oma-poro(-nay)
原野・の所・そこに入る・大きな(・川)
(典拠あり、類型あり)
問寒別川の東支流で、ヌプカナイ川の北隣(上流側)を流れています。川の規模はヌプカナイ川と大差ない感じで、支流もいくつかありますが、残念ながら川の名前は確認できていません。

「北海道地名誌」には次のように記されていました。

 ヌポロマッポロ川 摺鉢山に源を発し,トイカンベツ川の左に入る支流。意味不明。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.393 より引用)
毎度おなじみ「意味不明®」ですが、懲りずに更科さんの「アイヌ語地名解」を見てみると……

 ヌツポロマツポロ
 ひどくややこしい地名であるが、問寒別川の支流の名がそのまま字名になっていたが、三十四年の字名改正で消えた。しかし五万分の地図ではヌポロマツポロ沢となっている。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.176 より引用)
「ヌポロマッポロ」が「ヌツポロマツポロ」に進化したようで、どことなく漫才コンビ的な趣が出てきました。幸いなことに続きがありまして……

古い五万分図によるとノッポロマッポロでもヌッポロマッポロでもなく、ヌポロマップとなっている。これならば大体意味がわかるように思う。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.176 より引用)
あー、たしかに大体意味が見えてきましたね。

ヌㇷ゚は原野のことであり、ポロは大きいである。マップはおそらくオマ・プで、そこにある者という意味で原野にある大きなもの、すなわち原野にある大きい川の意味だと思う。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.176 より引用)
え……? これはちょっと想定外の解が出てきました。セカンドオピニオンということで、山田秀三さんの旧著「北海道の川の名」を見ておきましょうか。

ヌポロマポロ川
 問寒別川の支流。原野の中を流れている相当長い川である。この川の意味についての旧記をみたことがないが、今残っている形のままに読めばヌポロマ・ポロ・( ナイ)「Nup-or-oma-poro-(nai)原野・の中・にある・大きい・(川)」と聞こえる。
(山田秀三「北海道の川の名」モレウ・ライブラリー p.63 より引用)
あ、この考え方だとスッキリできそうです。更科さんは nup-poro-oma-p で「原野・大きい・そこにある・もの」と考えたようでしたが、山田さんは nup-or-oma-poro(-nay) で「原野・の所・そこに入る・大きな(・川)」ではないかと考えたのですね。

更科さんの説と山田さんの説はどちらも似ていますが、poro の位置が異なっています。どちらの説で考えても poro の位置には若干の違和感があるのですが、山田さんは poro の後ろに -nay(あるいは -pet)を補うことで違和感を消したように思えます。

「ヌポロ」の「ポロ」と「マポロ」の「ポロ」は、全く別物だったと思われるのですが、傑作なのが近くの三角点の名前で、「奴幌」と「真幌」という三角点がそれぞれ別々に存在しています。やっぱり「ヌポロマポロ」は「どうも~、ヌポロで~す」「マポロで~す」と考えたくなるということでしょうか。

ケナシポロ川

kenas-poro(-nay?)
川端の木原・大きな(・川)
(典拠あり、類型あり)
幌延町中問寒のちょいと南側(中問寒神社の南)で問寒別川に合流する西支流の名前です。川名はカタカナですが、「毛無」や「毛無幌」という三角点が存在します。

「ケナシ」は kenas のことだと思われますが、kenas は時と場合によって解釈にブレのある語でもあります。山田秀三さんの旧著「北海道の川の名」には次のように記されていました。

ケナシポロ川
 これも問寒別川では相当な支流(ヌポロマポロ川の対岸)。ケナシ(kenash)という詞は、普通「川添の林」と訳されるが、土地によって「川から少し高くなった処」の意にも使うし、「知里小辞典」によれば名寄では原野、クッシャロでは湿原の意に使うともいう。アイヌ語には、このように土地によって意味の異る詞がときどきある。ここは名寄に近いので、あるいは「原野」の意だったろうか。
(山田秀三「北海道の川の名」モレウ・ライブラリー p.63 より引用)
山田さんは kenas は「原野」と解釈できるのではと考えたようですが、更科さんの「アイヌ語地名解」には次のように記されていました。

ケナシとは川淵のことであり、よく妖精などの住んでいるといわれる場所で、ところによっては、普通の原野をそういう言葉でよぶところもあるが、ここではすぐ下流の原野をヌㇷ゚とよんでいるから、やはり川淵の原とすべきと思う。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.176 より引用)
更科さんは「川端の木原」と考えたようです。考え方を見比べた感想ですが、今回は更科さんの説のほうにより説得力を感じます。kenas は「川端の木原」と考えたいところです。

そしてここでも「ポロ」が良くわからない順番で出てきていますが、これも「ヌポロマポロ」と同様に -nay(あるいは -pet)が略されたと考えると納得が行きます(厳密には kenasporo の間にも何か省略された語がありそうな気がします)。kenas-poro(-nay?) で「川端の木原・大きな(・川)」と考えられそうです。

イソサンヌプリ山

iso-san-nupuri
獲物・山から浜へ出る・山
(典拠あり、類型あり)
幌延町は天塩郡豊富町・天塩郡天塩町・中川郡中川町・枝幸郡中頓別町・枝幸郡浜頓別町・宗谷郡猿払村の 6 町村と接していますが、「イソサンヌプリ山」は浜頓別町との境界に聳える標高 581.2 m の山です。一等三角点もあるのですが、名前が「磯桟岳」とのこと。「イソサンヌプリ」を漢字に直したものなんでしょうね。

更科さんの「アイヌ語地名解」には次のように記されていました。

 イソサンヌプリ
 中頓別の北、浜頓別町と天塩幌延町との境に、五八一㍍のイソサンヌプリ山というのがある。イソは狩りの獲物のことで、サンは下って来る意味で、獲物の下る山ということ。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.187 より引用)
iso-san-nupuri で「獲物・山から浜へ出る・山」と読めそうですね。更科さんは「サンは下って来る意味で」としていますが、確かに「下る」あるいは「下りる」と考えるとしっくり来そうな気がします。

この場合のイソは鹿の少ない地方だから熊かと思うが、十勝にユクランヌプリ(鹿の天降る山)があり、日高のアポイ岳も、鹿が天からおろされる山というから、この山も獲物をめぐんでくれる山の意味で、昔は酒や木幣をあげて拝した山であると思う。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.187 より引用)
ふむふむ。「海の幸山の幸」という概念があるかと思いますが、イソサンヌプリ山はまさしく「山の幸」を齎してくれる山だったと考えられそうですね。雄武町には「イソサム川」という川がありますが、同系のネーミングと見て良さそうです。

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