2021年8月22日日曜日

北海道のアイヌ語地名 (860) 「ニタチナイ川・タンネペナイ川・エコペ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

ニタチナイ川

nitat-nay
湿地・川
(典拠あり、類型あり)
猿払村浜猿払の西に「ポロ沼」という大きな沼があります。ポロ沼は猿払川と合流して海へと繋がっているのですが、ポロ沼と猿払川の間、ポロ沼から見て南に「狩別川」が流れています。ニタチナイ川は狩別川を少し遡ったところで合流している南支流です。

「東西蝦夷山川地理取調図」には「ニタツナイ」という名前の川が描かれていました。明治時代の地形図には「ニタチナイ」と描かれています。

お隣の浜頓別には「仁達内にたちない」という地名と、同名の川が流れていますが、解釈も同じで nitat-nay で「湿地・川」だと思われます。

タンネペナイ川

tanne-{pin-nay}?
長い・{細く深い谷川}
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
猿払村芦野のあたりを流れる猿骨川の北支流で、同じく北支流であるエコペ川の南側を流れています。地理院地図には人工的に整備されたと思しき下流部のみ河川として描かれていて、河川名は明記されていません。

「東西蝦夷山川地理取調図」には「猿骨沼」より上流側の川が一切描かれていないこともあり、タンネペナイ川に相当する川も見当たりません。明治時代の地形図には「タンペナイ」とあり、既に現在の名前と同じだったようです。

「タンネペナイ」を素直に読み解くと、tanne-pe-nay で「長い・水・川」となろうかと思われます。それほど水量がある川には見えませんが、飲み水を確保するのに有用だったのかもしれません。

あるいは、もしかしたら tanne-{pin-nay} で「長い・{細く深い谷川}」だったのかもしれません。タンネペナイ川は台地を刻むように流れていますが、上流部は比較的細くて長い谷のような形状をしています。そのことを指して「長くて細く深い沢」と呼んだのかな……と考えてみたのですが……。

エコペ川

enkor-{pin-nay}??
鼻(岬)・{細く深い谷川}
emko-{pin-nay}??
水源・{細く深い谷川}
(?? = 典拠あるが疑問点あり、類型未確認)
猿骨川の北支流ですが、支流とは言いながら流長・流域ともに猿骨川と大差ないように見える、かなり大きな川です。

「東西蝦夷山川地理取調図」には「猿骨沼」よりも上流側の川が一切描かれていないため、意外なことにエコペ川に相当する川も見当たりません。本来だと「鬼志別川」と「狩別川」の間に「エコペ川」と「猿骨川」がある筈なのですが、見事に無かったことにされてしまっています。

この「エコペ川」ですが、「北海道地名誌」には次のように記されていました。

 エコベ川 猿骨川の左支流。「エ・コッ・ペ」で海中の一つ岩の意かと思う。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.403 より引用)
更科さん、偶に偶に良くわからないことを言い出す印象があるのですが……(今日は「永田さん」じゃないのね)。確かに知里さんの「──小辞典」には次のようにあるんですけどね。

e-kot-pe エこッペ 海中の孤岩。 [そこに・くっついている・者]
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.25 より引用)
ただ、エコペ川は猿骨川の支流で、海からはそこそこ離れたところを流れています。下流部は湿原の中だったと思われますが、そこに「一つ岩」が顔を出していた……とでも考えたのでしょうか。

「エコペナイ」と「タン子ペナイ」の関係

明治時代の地形図では、現在の「エコペ川」のところに「エコペナイ」と描かれていました。興味深いことに、当時の地図では「タン子ペナイ」とほぼ同規模の川として描かれています。実際には「エコペ川」のほうが遥かに長く流域も広いのですが、なぜか過小評価されていたようです。

別の古い地形図を見ると、今度は「タン子ペナイ」が「エコペナイ」と同レベルの長大河川として描かれています。これも明らかに間違いなのですが、どちらも「エコペナイ」と「タン子ペナイ」が「同レベル」の川だと描かれている点が共通しているのは興味深いところです。

「エコペナイ」と「タン子ペナイ」はどちらも「──ペナイ」なので、似たような特徴を有していたと考えたくなります。「タン子ペナイ」は飲み水を確保する川だったかと考えましたが、「エコペナイ」の下流側は湿原が広がっていたと思われるため、同等の特徴を有していたと考えるのは少々苦しいように思えます。

ということで、やはり「──ペナイ」は pin-nay で「{細く深い谷川}」ではないのかな、と考え始めています(あるいは pi-nay で「小石・川」の可能性もありそうですが)。

鼻か岬か水源か

問題は「エコ」なのですが、enkor で「鼻(岬)」か、あるいは emko で「水源」あたりでしょうか。どちらで考えてもそれなりに妥当性がありそうで、逆に言えば決め手に欠けるように思えます。ということで、enkor-{pin-nay} で「鼻(岬)・{細く深い谷川}」か、あるいは emko-{pin-nay} で「水源・{細く深い谷川}」あたりかなぁと思うのですが……。

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