(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
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野近志(のちかし)
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)(?? = 典拠未確認、類型あり)
ウスタイベ岬と枝幸町問牧の間の地名(旧地名かも)で、現在も同名のバス停が存在します。「東西蝦夷山川地理取調図」には「ウシタイベ」の北隣に「ノツカヲマナイ」と描かれています。「トイマキ」と「ウシタイベ」の間には「ヲシヨコツ」「チヨマイ」「イナウシノツ」「ワツカクシナイ」「ホンノツホ」「ノツカヲマナイ」とあり、「ノツカヲマナイ」は当該区間の最南端の地名として描かれています。現在の「野近志」はウスタイベ岬と問牧のほぼ中間に位置するので、やや妙な感じもします。
「再航蝦夷日誌」には「ノツカシ」とあり、また「竹四郎廻浦日記」には「ノチカン」とあります。どちらの文献にも「ウキウシナイ」とセットで記録されていますが、「再航蝦夷日誌」には更に「ヲキウシナイ」という記録もあります。「竹四郎廻浦日記」では「ヲキウシナイ」が見当たらないので、「再航蝦夷日誌」ではうっかりダブルカウントした可能性がありそうです。
「峠を越える川」説への疑問
永田地名解には次のように記されていました。Nochikashi ノチカシ 岬ヲ迂回スル處 「ノツ、イカ、ウㇱュナイ」ノ急言ナリふむふむ。not-ika-us-nay で「岬・越える・いつもする・川」と考えたのですね。個人的にはそれほど違和感のない解ですが、更科さんは「アイヌ語地名解」にて次のように記していました。
ノッは岬であるが、イカは回り道ではなく、越えるという意で、いつも岬を越える川ということになりどうもうなずきがたい。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.197 より引用)
「岬を越える岬」問題
ただ、「午手控」には次のように記されていました。ノツカシこの記録を素直に解釈すると not-ka-us-nay 説はちょっと厳しくなるんですよね。やはり not-ika-us-nay と考えるしか無いのですが、一方で更科さんは次のような矛盾を指摘していました。
本名ノツイカウシ。此処より山道に入るが故に号し也
古い五万分の地図にはノチカシノツといって岬の名になっている。これでは「いつも岬を越す岬」ということになると思うが、
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.197 より引用)
そうなんですよね。見事に循環参照を起こしてしまっているようなのです。この循環参照問題について、更科さんは次のような試案を記していました。ヌプカ(野の上)ウシ(いつも……ある)ノツ(岬)とも考えられるので断定はできない。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.197 より引用)
うーん。not-ika や not-ka では無いと想定すると、そう考えるしか無いですかね……。「ウスタイベ岬の先にある岬」?
ここで改めて「東西蝦夷──」について考えてみたいのですが、「東西蝦夷──」では「ウシタイベ」の北に「ノツカヲマナイ」という川(と思われる)が描かれていました。not-ka-oma-nay で「岬・かみ・そこにある・川」と読めそうですが、「野近志」について考慮せずに読み解くならば、この not(岬)は「ウスタイベ岬」だと考えることも可能かと思われます。同様に、「ウスタイベ岬」の「かみ」(今回の場合は「北」)にある岬のことを not-ka-us-pe で「岬・かみ・そこにある・もの」と呼んだ……という可能性は考えられないでしょうか。
元々「イナウシノツ」と呼んでいた岬ですが、「ウスタイベ岬の先にある岬」のほうが通りが良かったのでは、という仮説です。このように考えると、更科さんが指摘した循環参照問題は発生しないと思われるので……。
オキシュナイ川
(典拠あり、類型あり)
野近志の北を流れる川の名前です。「再航蝦夷日誌」や「竹四郎廻浦日記」には「ウキウシナイ」という名前の川が記録されていますが、前述の通り「東西蝦夷山川地理取調図」には何故か描かれていません。永田地名解には次のように記されていました。
O ki ush nai オ キ ウㇱュ ナイ 川尻ニ葭アル川
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.438 より引用)
o-ki-us-nay で「河口・茅・多くある・川」と読めそうですが、「午手控」でも「蘆多し」とあるので、この ki は sar-ki(ヨシ、アシ)のことであると読み替えていいかもしれませんね。「ヨシ」は「アシ」のことで、「葦」だったり「蘆」だったり「葭」だったり「芦」だったりするので段々訳がわからなくなりますが……(汗)。
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