2021年2月28日日曜日

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北海道のアイヌ語地名 (811) 「若牛内川・班溪」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

若牛内川(わかうしない──)

wakka-us-nay
水・ある・川
(典拠あり、類型あり)
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
愛別川の「美志内橋」のすぐ上流側で合流している北支流の名前です。川の中流部に「協和温泉」という温泉があります。残念ながら地理院地図には「若牛内川」という名前の記載はありません。

この川は「東西蝦夷山川地理取調図」には描かれておらず、永田地名解や「上川郡アイヌ語地名解」にも記載がありません。前回の記事でも大量の「余談」をぶちまけてしまいましたが、仮に「東西蝦夷山川地理取調図」の内容が完全に信のおけるものだとすれば、この川は「チシコトンナイ」(chasi-kot-un-nay?)の片割れである可能性があります。

いつもの資料には記載が無かったものの、幸いなことに「北海道地名誌」に次のように記されていました。

 若牛内川(わかうしないがわ) 協和地区で愛別川に注ぐ右支流。川口上流 2 キロメートルで協和温泉(冷泉)が川畔より湧出している。アイヌ語で飲水ある川の意。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.318 より引用)
やはりと言うべきか、wakka-us-nay で「水・ある・川」と考えるしか無さそうな感じですね。

班溪(ぱんけ)

panke-{ay-pet}?
川下側の・{愛別川}
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
道道 101 号「下川愛別線」の「協和橋」のあたりで北から「パンケ川」が合流していますが、この「パンケ川」沿いに北上したところに「班渓」という地名があります。

「東西蝦夷山川地理取調図」には「ハンケアンベ」という名前の川が描かれています。続いて丁巳日誌「再篙石狩日誌」を見てみると……

扨、此アイヘツの事は此イチヤンコエキなる者能くしり居る山中に附、其大略を聞取て樺明しもて筆記するに、先フトより七八丁上りて左りの方ウツクシナイ、右の方ヌフリコヽマツフ、ヌツハヲマナイ、左りの方チシフ(コ)トンナイ、並びてハンケアンヘ、しばし上りて右の方イシカリカリ(プ)しばし上りて左りのちサツクルベシベツ、此処よりテシホ川すじケ子フチえ山越によろしと。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.319 より引用)
昨日に続いて「愛別川の地理に詳しいイチヤンコエキ君」の登場ですが、「左りの方チシフ(コ)トンナイ、並びてハンケアンヘ、しばし上りて右の方イシカリカリ(プ)」とあります。「イシカリカリプ」は「狩布川」のことと考えられるので……うーん、ちょっと変な感じのする記録になっていますね。

ちょっと気になる点

イチヤンコエキが言うには、「チシコトンナイ」と「ハンケアンベ」は並んでいて、少し先に「イシカリカリプ」が右手から合流しているらしいのですが、実際の地形を見てみると「パンケ川」と「狩布川」の距離のほうが遥かに近いのですね。つまり、イチヤンコエキの言う「ハンケアンヘ」が現在の「パンケ川」であるか、ちょっと疑わしい……ということになります。

もっともこれは、「パンケ川」が現在の「協和橋」あたりで合流するのではなく、もう少し下流側まで合流せずに並んで流れていたと考えればクリアできる問題ではあります。極端な話、現在の「若牛内川」の下流部がパンケ川の成れの果てであったと考えれば、全て辻褄が合ってしまいます。

パンケ・アイペツ?

この「パンケ川」については、知里さんも次のように記していました。

 パンケ・アイペツ(Pánke-Aipet「川下の・愛別川」)
 ホロカ・アイペツ(Hórka-Aipet「後戻りする・愛別川」)パンケアイペツの左の枝川。
(知里真志保「知里真志保著作集 3『上川郡アイヌ語地名解』」平凡社 p.332 より引用)
知里さんが「ホロカ・アイペツ」と記録した川は、現在「左股パンケ川」と呼ばれる川のことかと思われます。となると「パンケ川」は「パンケ・アイペツ」ということになりますね。

このネーミングについても少々引っかかる点がある(「ペンケ」と「パンケ」は本来同格の河川を区分するための接頭詞で、支流に冠するケースはあまり例が無いように思える、など)のですが、完全に本筋から外れる気がしてきたので今日はこの辺で。「班渓」は panke-{ay-pet} で「川下側の・{愛別川}」ですね、というお話でした。

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