2020年6月28日日曜日

北海道のアイヌ語地名 (741) 「留産・目名川・知来別」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

留産(るさん)

ru-o-san-i
道・そこで・下る・ところ

(典拠あり、類型あり)
喜茂別町西部の地名です。国鉄胆振線に同名の駅がありましたので、まずは「──駅名の起源」を見ておきましょうか。

  留 産(るさん)
所在地 (胆振国) 虻田郡喜茂別町
開 駅 昭和 3 年 10 月 21 日(胆振鉄道)
合 併 昭和 16 年 10 月 15 日(胆振縦貫鉄道)(客)
起 源 アイヌ語の「ルオサニ」、すなわち「ル・オ・サン・イ」(道がそこを下る所) 、坂の下り口の意である。
(「北海道駅名の起源(昭和48年版)」日本国有鉄道北海道総局 p.80 より引用)
ru-o-san-i で「道・そこで・下る・ところ」なのですね。知床の「ルサ」や「ルシャ」と似ていますが、あちらは ru-e-san-i だったと記憶しています(「道・そこで・下る・ところ」と解釈するのは同じなのですが)。

丁巳日誌「報志利辺津日誌」にもほぼ同様の内容が記されていました。

又七八丁も下るや、
     ルウサン
此処も同じ(様)成処にて、西岸少しの平地、其上皆箬山。東岸は平地。ルウサンと云は道より下ると云儀なり。むかしはアフタ蝦夷等此処え下り来りし由也。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.342 より引用)
留寿都から京極に向かう場合、喜茂別を経由するよりも尻別岳の西側を抜けたほうが移動距離を短くできますが、このルートを通った場合、ちょうど留産のあたりが下り坂になります。そのことを指してのネーミングだったのですね。

目名川(めな──)

mena?
細い枝川

(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
喜茂別町西部、比羅岡から留産のあたりを流れる川の名前です(尻別川の西支流)。昔の地形図を見ると、このあたりの西支流は軒並み「メナ川」だったようで、喜茂別の「目名川」は「上メナ川」と呼ばれていた時代もあったようです。

そのため、永田地名解でも次のようにおかしなことになっていました。

Kashp ni    カシュプニ     杜仲(マユミ)
Mena      メナ        細川
Oro kunnep   オロ クンネㇷ゚   水中黑キ處 細川ナレトモ水深クシテ暗黑ナリ
Mena      メナ        細川
Wakka tasatp  ワㇰカ タサッㇷ゚  水ヲ汲ミニ下ル處 土人云水瀨强ク下ル處ナリト
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.180 より引用)
mena は道南に多い地名(川名)ですが、その意味するところは明確ではありません。永田方正は虻田アイヌからの情報として「『メナ』は『アネ』と同じ」即ち「細い」という意味だと記していますが、服部四郎の「アイヌ語方言辞典」には、mena を「細い」とする記載は見当たりません。

また知里さんは「menamem(泉池)と同じではないか」と考えていたようですが、各所のメナを見る限り、必ずしも mem に相当する泉池が見当たるわけではないとのこと。

「寒い」という意味の me という語彙があり、また「冷たい」を意味する nam という語彙もあったよなぁ……などと想像を膨らませたりもするのですが、今日のところは mena は「細い枝川」としておこうかと思います。

知来別(ちらいべつ)

chiray-ot-pet
イトウ・多くいる・川

(典拠あり、類型あり)
国道 230 号の中山峠を越えると、ほどなく国道は喜茂別川沿いに西に向かうことになります。喜茂別川の南支流に「知来別川」という川があり、知来別川沿いの一帯が「知来別」です。そのまんまですいません。

「東西蝦夷山川地理取調図」には「キモウヘツ」の支流として「チライヘツ」という名前の川が描かれていました。そのまんまですいません……。

戊午日誌「作発呂留宇知之誌」には次のように記されていました。

しばし過て
     チライヲヽベツ
右の方小川。此川すじいとうといへる魚入るによって号るよし。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.52 より引用)
やはり chiray(イトウ)の入る川だったんですね……。ほぼそのまんまですいm(ry

永田地名解には次のように記されていました。

Chirai ot pet  チライ オッ ペッ  イト魚川
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.179 より引用)
あー、やはり chiray-ot-pet は「イトウ・多くいる・川」で、場合によっては -ot が略されることもあったのですね。そのまn(ry

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