2020年6月6日土曜日

北海道のアイヌ語地名 (734) 「幌似・シノナイ川・チップサップ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

幌似(ほろに)

poro-ichani
大きな・鮭鱒の産卵穴

(典拠あり、類型あり)
共和町の役場のあるあたりの地名です。中心部……と言うよりは、町域の中央部と言ったほうが正確かもしれません(共和町の市街地は複数に分散されていて、「中心街」と呼ぶべきところが見当たらないような印象があります)。

かつて、岩内と小沢のあいだを「国鉄岩内線」が走っていて、幌似にも駅がありました。ということで、まずは「北海道駅名の起源」を見てみましょう。

  幌 似(ほろに)
所在地 (後志国)岩内郡共和町
開 駅 大正 8 年 12 月 5 日
起 源 アイヌ語の「ポロ・ナイ」(親である川)から転かしたものである。
(「北海道駅名の起源(昭和48年版)」日本国有鉄道北海道総局 p.34 より引用)
この解について、山田秀三さんは「北海道の地名」にて次のような検討を加えていました。

 この種の大川の中流をポロ・ナイと呼ぶことは殆ど例がない。あるいはこの辺にポロナイの川名がなかったかと旧記を探し,また現地を訪れて見たが見つからない。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.472 より引用)
この「幌似」という漢字表記は割と早く成立したようで、古い地形図にも「幌似」と漢字で描かれているケースが見られます。

「東西蝦夷山川地理取調図」には「ホロヘツ」という名前の川が描かれていて、「曽宇津計日誌」にも記録があるのですが、他の川との前後関係を見てみると、現在の「赤玉川」か「中の川」あたりと考えられそうです。「ホロヘツ」は幌似の市街地から見るとやや西側で、むしろ「前田」に近いのが引っかかるところです。

現地に同行した兼平睦夫さんが,その後小字名を調べて,駅や役場に近い御手作場の辺が,昔はホロイザンニ,ホロイサンニと呼ばれたことを知らせて下さった。もちろんポロ・イチャニ(大きい・鮭鱒産卵場)の意。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.473 より引用)
あっ、そう言われてみれば「ホロイチヤン」という川が「東西蝦夷山川地理取調図」に描かれていました。そして、よく見ると永田地名解にも記載がありました。

Poro ichan  ポロ イチャン  鮭鱒ノ大ナル産卵場 今ハ埋沒シテ無シ
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.117 より引用)
永田地名解の伝家の宝刀「埋沒シテ今ハ無シ」いただきました! poro-ichani で「大きな・鮭鱒の産卵穴」と考えて良さそうですね。

シノナイ川

si-nu-un-nay
主たる・豊漁・ある・川

(典拠あり、類型あり)
堀株川の南支流で、共和町役場の西側を流れています。永田地名解には次のように記されていました。

Shir’un nai  シルンナイ  遠方ヨリ來ル川 硫黄山ノ方ヨリ來リ「シルムカ」川ニ入ル今「シヌウウンナイ」ト云フ
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.116 より引用)
また、なんかよくわからないことが書いてありますが……。ただ、「今『シヌウウンナイ』と云う」と書いてあるのは「東西蝦夷山川地理取調図」にある「シヌンナイ」という記録と符合しそうに思えます。

丁巳日誌「曽宇津計日誌」には次のように記されていました。前後関係に疑義があるので、少し長めに引用します。

     ヘンケシヨハナイ
人間にて中の川と云、川巾弐間余、橋有。こへてしばし過て
     ワツカウンナイ
本名ワツカウエンナイ、上に谷地有。水悪敷が故に此名有るなり。又樹木立原しばし行て、
     チエツフシヤクヘツ
訳して魚無川と云ことなり。土地平坦樹木多し。上に谷地有。しばし行て、
     シヌンナイ
     ムニヽベ
共に小川、橋有。ムニヽベと云訳は魚が多くむかし入来りて腐れしと云事なる由。ムニヽは腐る、イヘは喰物なりとかや。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.125-126 より引用)
これによると、「ヘンケシヨハナイ」が「中の川」だ、とあります。また「シヌンナイ」の西(海側)に「チエツフシヤクヘツ」という川があるようにも読めますが、現時点では「シノマイ川」の東に「チップサップ川」が流れています。

幸いなことに、明治時代の地形図に「シノナイ」が描かれていて、それを見る限りでは現在の「シノナイ川」と同一の川であると考えられます(上流部は現在の「ポン神恵川」との混同が見られますが)。

永田地名解の説明も加味すると、やはり「シノナイ川」は「シヌンナイ」のことと考えて良いのかな、と思えます。si-nu-un-nay で「主たる・豊漁・ある・川」と解釈できそうです。

チップサップ川

cep-sak-pet?
魚・無い・川

(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
共和町役場のすぐ近くで「シノナイ川」に合流する東支流の名前です。「東西蝦夷山川地理取調図」には見当たらないようですが、前述の通り「曽宇津計日誌」に「チエツフシヤクヘツ」という川名が記録されています。

現在の「チップサップ川」が「チエツフシヤクヘツ」と同一の川であるかは疑問の余地がありますが、意味するところは cep-sak-pet で「魚・無い・川」と考えられます。

共和町の南には「ワイスホルン」という山があり、その南には「イワオヌプリ(硫黄山)」や「ニセコアンヌプリ」などがあります。川によっては温泉として湧出した水が流れる場合もあり、そういった川には魚が近づかない……ということかと思います。

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