2020年4月11日土曜日

北海道のアイヌ語地名 (718) 「ウエンド・伊佐内川・クエドスベツ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

ウエンド

wen-to
悪い・沼

(典拠あり、類型あり)
積丹原野の比較的西側(海側)一帯の地名です。同名の川が南から北に向かって流れていて、積丹川に合流しています。

「東西蝦夷山川地理取調図」にはそれらしき名前の川が見当たりません。位置的には「アラヘツハヲマナイ」という名前の川が近そうですが、「アラヘツハヲマナイ」には「ケナシハヲマナイ」という東支流があり、またその支流として「ホンイヨヘツ」と「フイタシヘツ」があるように記されています。

これらの「東西蝦夷山川地理取調図」に登場する川は、「西蝦夷日誌」にも記載がありました。

 ○川筋開墾地多く、上にケナシバヲマ(右川)、アラベツバ(右川)、ヲマナイ(右川)、イヨベツ(右川)、フイタシベツ(右川)、過て岳〔積丹岳〕の南面に至り、サネナイ〔珊内、柵内〕え堅雪の時越るに近く、左りクルマツナイ(左)、ラフシマウシ(平地)、ホリカシヤコタン(水源)、此邊惣て平地、畑地によろし。
松浦武四郎・著、吉田常吉・編「新版 蝦夷日誌(下)」時事通信社 p.140 より引用)
「アラベツバ」と「ヲマナイ」がそれぞれ別の川として記されていますが、おそらく「アラヘツハヲマナイ」で一つの川ではないかと思っています。ar-pet-pa-oma-nay で「他方の・川・岸・そこに入る・川」と読めそうでしょうか。

不思議なことに、永田地名解には「ウエンド」という地名・川名について記載がありました。

Wen tō  ウェン トー  惡沼 野塚村ニアリ痘瘡流行ノ際土人此沼ニ死スル者多シ故ニ惡沼ト名クト云フ此沼今埋沒シテ僅ニ水アリ
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.101 より引用)
ふーむ。沼があったとしたら積丹川に合流する直前あたりでしょうか。「今埋没して」というのは永田地名解ではおなじみのスタイルですが、「天然痘の流行」というのは時期的にもしっくり来る話なので、松浦武四郎が蝦夷地探索を終えたあとにそのような地名が新たに生まれた、という可能性もありそうな気がします。

伊佐内川(いさない──)

e-san-nay???
水源・浜へ出ている・川
e-sa(-us)-nay???
頭・前(・突き出している)・川

(??? = 典拠なし、類型未確認)
積丹川の中流域に「丸山」という山が孤立円丘がありますが、伊佐内川は丸山の西のあたりで積丹川に注いでいます。伊佐内川の水源は積丹岳の北東側です。

「東西蝦夷山川地理取調図」にはそれらしい川は描かれておらず、また「西蝦夷日誌」にもそれらしい記録が見当たりません。ただ明治時代の地形図には「エサンナイ」と描かれていましたので、おそらく元々は「エサンナイ」という名前だったと思われます。

e-san は「頭が・浜へ出ている」と解釈できるので、「岬」を意味する場合があります。ただ今回の場合は、e-(頭)を水源、つまり「積丹岳」と考えたほうが良さそうな気がします。

積丹岳は四方に向かって尾根が伸びていますが、伊佐内川の水源付近も北北東に尾根が伸びています。面白いことに、尾根が伸びた先に伊佐内川の支流の水源があるのですね。このことを e-san-nay で「水源・浜へ出ている・川」と呼んだのではないかなぁ……と考えてみました。

ただ、伊佐内川が積丹川と合流するあたりに存在する「丸山」の存在もやはり気にかかります(これだけ特徴的な地形をスルーするというのも、少し引っかかるものがあります)。もしかしたら「丸山」が e-sa-us-i(頭・前・突き出している・もの)と呼ばれていて、丸山の近くを流れる「伊佐内川」が e-sa(-us)-nay で「頭・前(・突き出している)・川」と呼ばれた可能性もあるかもしれません。

クエドスベツ川

kut-etu-us-pet???
岩層のあらわれている崖・鼻(岬)・ついている・川

(??? = 典拠なし、類型未確認)
積丹原野の中でも東のほう、地理院地図では「婦美原野」となっているあたりを北に流れる川の名前で、積丹川に合流しています。

明治時代の地形図には「クエト゚スペツ」と描かれていました。おそらく「エト゚」は etu で「鼻」(岬のような地形)のことかな、と思わせます。kut-etu-us-pet で「岩層のあらわれている崖・鼻(岬)・ついている・川」ではないかなと考えてみたのですが、いかがでしょうか。

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