2020年3月21日土曜日

北海道のアイヌ語地名 (712) 「ススキナイ川・六志内」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

ススキナイ川

susu-us-nay??
柳・ある・川
siw-kina-us-nay??
{エゾニュウ}・多くある・川

(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
古平川の西支流で、古平町鴨居木(かもいぎ)の南側を流れています。「東西蝦夷山川地理取調図」には「シユシユキナイ」という名前で描かれています。また「竹四郎廻浦日記」には「シユシユケナイ」という記録があります。

永田地名解には次のように記されていました。

Shushu ush nai     シユシユ ウㇱュ ナイ   柳ノ澤 今「ススキナイ」ト訛ル
Poi shushu ush nai ポイ シユシユ ウㇱュ ナイ 柳ノ小澤 「ポイシユツウシ」ニ訛ル
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.98 より引用)
急にボールが来た感がありますが、やはりそう考えるのが自然でしょうか。susu-us-nay で「柳・ある・川」と解釈できそうです。

ススキナイ川には「鴨居木川」という北支流があります。川の長さ自体は「鴨居木川」のほうが長いのですが、もしかしたらこの川が「ポイシュシュウシナイ」と呼ばれていた可能性もあるかもしれません。

ここまで書いておきながら、どことなくスッキリしないのですが、どうも「ススキナイ」の「キ」がどこから出てきたのか不明である、ということに起因しているように思えます。

そして、よく見ると永田地名解には次のような記載もありました。

Shūkina ush nai    シユーキナ ウㇱュ ナイ    ニヨ草多キ澤
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.98 より引用)
記載があるのは「シユシユ ウㇱュ ナイ」のすぐ前なので、永田地名解の流儀を考えると現在の「出戸ノ沢川」のことを指している可能性が高いのですが、問題の「キ」が含まれていて、実はこっちが「ススキナイ」の本命だったりしないかな……と思えてなりません。

「ニヨ草」とは何だろう……と思ったのですが、siw-kina は「苦い・草」で「エゾニュウ」のことでした。なるほど「ニヨ草」なんですね……。{siw-kina}-us-nay で「{エゾニュウ}・多くある・川」と考えられますが、やがて -us を略するようになり siw-kina-nay と呼ぶようになった……とすると「シウキナナイ」になるんですよね。

六志内(ろくしない)

ru-kus-nay
道・通行する・川

(典拠あり、類型あり)
古平川沿いを道道 998 号「古平神恵内線」が通っています。道道 998 号は途中で古平川沿いから西支流である六志内川沿いにルートを変えて、トーマル峠を越えて神恵内村に出ることができます(よく整備された走りやすい道です)。

妙に番号が大きいと思ったのですが、どうやら元々は国道 229 号だったらしく、現在の積丹回りのルートが開通したタイミングで道道に移管されたことによるようです。

「東西蝦夷山川地理取調図」には「ルウクシナイ」と言う名前の川が描かれています。また「竹四郎廻浦日記」には「ルークシナイ」と言う記録があります。

永田地名解には次のように記されていました。

Ru-o kush nai  ル オ クㇱュ ナイ  路ヲ流ル川 「」ハ乘ル義
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.99 より引用)
「『オ』は乗る義」とあります。確かにそういう解釈もできるのですが、地名ではあまり目にしないような気がします。

山田秀三さんは「北海道の地名」で次のように記していました。

永田地名解は「ルオクシナイ。路を流る川。オは乗る義」と書いたが,これはル・クシ・ナイ(ru-kush-nai 道が・通っている・川)と訳すべきであろう。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.485 より引用)
ですね。ru-o-kus-nay で「道が・そこで・通行する・川」と解釈することもできそうですが、素直に ru-kus-nay で「道・通行する・川」と考えていいかな、と思います。

天塩川川口の処の支流にも同名がある。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.485 より引用)
ですね。天塩の六志内については北海道のアイヌ語地名 (162) 「作返・振老・六志内」で取り上げていますので、ご参考にどうぞ。

「六志内」の謎

今更ではあるのですが、古平の「六志内」という地名(川名)については若干腑に落ちない点がありました。実は、六志内川を水源まで遡ったところで、古平町と神恵内村の間の分水嶺まで辿り着けないのです(!)。

ru は「道」であって必ずしも「峠道」を意味するわけではありませんが、実際には大体が「道」=「峠道」を意味するように思われます。よって「六志内」も「峠道の沢」と考えるのが自然です。

道道 998 号(かつての国道 229 号)の「トーマル峠」は、六志内川の北側を流れる「泥ノ木川」の水源に当たります。六志内川を経由するのと比べて距離も短そうなので、泥ノ木川沿いに道があっても良さそうなものですが、途中に「観音滝」という滝があることと、観音滝から上流部は崖が著しく多いことから、わざわざ遠回りして六志内川沿いを歩いたと考えられそうです。

泥ノ木川はおそらく落石なども多く、歩行するには良くないと認識されていたと想像できますが、昔は「ヲロウエンベツ」と呼ばれていたようでした。oro-wen-pet で「その中・悪い・川」ということになります。

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