(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
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ソウシナイ川
(? = 典拠未確認、類型多数)
雨竜川の「支流」である「ウツナイ川」を遡ると、「朱鞠内湖(宇津内湖)」を形成する「雨竜第二ダム」があります。ダム湖の西側には北に向かう道道 528 号「蕗の台朱鞠内停車場線」が通っている……筈なのですが、長年通行止めが続いているのはご存じの方もいらっしゃるかもしれません(実は「雨竜第二ダム」の手前で通行止めになっているので、ダムにすらたどり着けません)。ダムの北には「釜ヶ淵」という地名があります。前述の道道 528 号は、釜ヶ淵の北のあたりからダムの南側まで通年通行止めです。
ウツナイ川の「釜ヶ淵」から少し南に戻ったところで、「ソウシナイ川」が西からウツナイ川に注いでいます。地形図では、ソウシナイ川の河口部に「二重滝」という滝が存在するように描かれています。
これだと o-so-us-nay で「河口・滝・ついている・川」と呼んでも良さそうな気もしますが、あえて so-us-nay で「滝・ついている・川」としたのは、もしかしたら上流部にも別に滝が存在したから、かもしれませんね。
滝のある川は歩くのに苦労するほか、鮭などが遡上できなくなるケースもあるので、このように川の名前として残るケースが多いのでしょうね。「釜ヶ淵」の北側には「滝の沢川」という川もあります。
エビシオマップ川
(典拠あり、類型あり)
ウツナイ川を北に遡ると、道道 688 号「名寄遠別線」の「宇津内橋」に差し掛かります。現在絶賛延伸工事中の道道 688 号で 1 km ほど北に向かうと「うぐい橋」という橋で「エビシオマップ川」を渡ります。エビシオマップ川は「うぐい橋」のすぐ東でウツナイ川と合流する……ということになります。このエビシオマップ川、「東西蝦夷山川地理取調図」などには描かれていませんが、永田地名解に記載がありました。
E pish omap エ ピㇱュ オマㇷ゚ 濱ヘ行ク川「浜へ行く川」というまとめ方はさておき、基本的な考え方は間違ってなさそうな感じです。山田秀三さんの「北海道の地名」も見ておきましょうか。
エピシオマップ川(雨竜川源流部)
ウツナイ川中流の西支流の名。エピショマプ「e-pish-oma-p 頭(水源)が・浜(の方)に・入っている・もの(川)」の意。この場合の「浜」は日本海の羽幌の辺を指していったものらしい。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.87 より引用)
はい。e-pis-oma-p で「頭(水源)・浜のほう・そこに入る・もの(川)」と考えられそうです。沼田町の「恵比島」と同じ由来の川名、ということになりそうですね。「エビシオマップ川」を遡ると、ずっと西に向かっていたものが、最終的にはピッシリ山に向かって南南西に向きを変えます。南、あるいは南西は雨竜川の流れる方向でもあるため、このことを指して「浜のほうに入る」と呼んだと考えられます。
山田さんの言うように「羽幌の辺」であれば、「南西」ではなくて「西」になるので、少なからぬ川が e-pis-oma-p に該当してしまいます。
ピッシリ山
(? = 典拠あり、類型未確認)(??? = 典拠なし、類型未確認)
羽幌町・遠別町・幌加内町の境界に聳える標高 1031.5 m の山の名前です。「東西蝦夷山川地理取調図」には「ハホロヒツシリ」という名前の山が描かれています。山田秀三さんの「北海道の地名」には、次のように記されていました。
登っていないのではっきりしないが,言葉はピッ・シリ(pit-shir 石の・山)と読まれる。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.88 より引用)
pit-sir で「小石・山」ではないか、という説ですね。更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」にも、次のように記されていました。ピッシリ山
幌加内、遠別の境界をする山。石山の意。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.149 より引用)※ 原文ママ
あー、pit-sir 説で断言されちゃってますねー。本当に小石だらけの山なのかは、実地を確認するしか無いような気もしますが、山田さんの「北海道の地名」には次のようにも記されていました。
ピッシリ山
エピショマプ川の水源の高い山で,
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.88 より引用)
そうなんですよね。海老塩……じゃなくてエビシオマップ川を遡ると、最終的に「ピッシリ山」に出るのです。ピッシリは、実は pis-sir で「浜のほう・山」だったんじゃないかと思えてならないのですが……。相志内向岳(あいしないむき──)
(?? = 典拠なし、類型あり)
道道 688 号「名寄遠別線」の「うぐい橋」から更に 1.5 km ほど北に進んだところに「イワナ橋」という橋があります。「相志内向岳」は「イワナ橋」の北に聳える標高 637.5 m の山の名前です。例によってそもそもアイヌ語に由来するかどうかも定かではないのですが、「アイシナイ」という川に面した山である可能性があるかと考えました。ただ、残念ながら「アイシナイ」という名前の川の存在は確認できません。
ウツナイ川の支流ではなく、東側の「泥川」の支流のひとつがそう呼ばれていた可能性もありそうです。
「アイシナイ」は ay-us-nay で「イラクサ・多くある・川」と考えるのが自然かと思いますが、ay を「カジキマグロの‘つの’」(上あご)と解釈する流儀もあるとか。そもそもが「矢」だったり「とげ」と解釈できる語彙なので、要は「尖ったもの」ということのようです。
改めて地形図を眺めてみると、「相志内向岳」自体が東に向かって尖った形をしています。「相志内向岳」の北側を流れる川が、ay-us-nay で「尖った山・ついている・川」と呼ばれて、それが山の名前に逆輸入された……なんて可能性も(もしかしたら)あるのかもしれません。
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