2020年1月11日土曜日

北海道のアイヌ語地名 (693) 「雄木禽」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

雄木禽(おききん)

o-{kikin-ni}-nay
河口・{エゾノウワミズザクラ}・川

(典拠あり、類型あり)
名寄美深道路の現時点での終点である「美深北 IC」の 200 m ほど北を「雄木禽川」という川が流れています。雄木禽川沿いを通る「十一線」で東北東に向かったところに「雄木禽」の集落があります。嬉しいことに、この地名は今も現役です。

「ヲキイモイ」あるいは「ヲキイキイ」説

「東西蝦夷山川地理取調図」には「ヲキイモイ」という川が描かれています。ところが「天之穂日誌」には「ヲキイキイ」という名前で記されていました。なるほど、「モ」は「キ」の誤記だった可能性がありそうですね。

「オ キキン ニ ナイ」

永田地名解には次のように記されていました。

O kikin ni nai  オ キキン ニ ナイ  早咲接骨木ノ澤
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.416 より引用)
「早咲接骨木」とはなんだろう……という話ですが、どうやら「接骨木」(セッコツボク)は「ニワトコ」のことだそうです。

キキンニのあれこれ

道東の美幌に「木禽川」という川があるのですが、kikin-ni は「ナナカマド」と解釈するほかに「エゾノウワミズザクラ」と解釈する流儀があります。

とても面白いことに田村すず子さんの「アイヌ語沙流方言辞典」には「ナナカマドの木」と記されていて、一方で沙流川のほとりの二風谷に住んでいた萱野茂さんの辞書には「エゾノウワミズザクラ」と記されています。

知里さんの「分類アイヌ語辞典 植物編」には「ナナカマド」を意味する語彙として iwa-kikinni というものが存在する、と記されています。

注 2.──ただ「キキンニ」といえば普通にわエゾノウワミズザクラの莖をさすので,それと區別するために「イワ」(山の)とゆう限定詞をつけたのである。
(知里真志保「知里真志保著作集 別巻 I『分類アイヌ語辞典 植物編』」平凡社 p.128 より引用)
ただ、この注から「kikin-ni は『ナナカマド』ではない」という解を導くのは早計で、ナナカマドも kikin-ni と呼ばれていたと考えられます。なぜ異なる木を同一の名前で呼んだのか……という疑問が出てきますが、知里さんは次のように考えていたようでした。

( 1 ) 'kikinni (ki-kín-ni) 「キきンニ」[kiki(魔神を追っぱらうもの,=棒幣)ne(になる)ni(木)]莖 《美幌》
注 1.──詳しくわ §206,(1), 注 1~3 を参照せよ。
(知里真志保「知里真志保著作集 別巻 I『分類アイヌ語辞典 植物編』」平凡社 p.127 より引用)
なるほど、どちらも「木幣」の原材料として用いられた(故に同じ名前で呼ばれた)という説のようですね。

幻の「ニワトコ」

さて。美深の「雄木禽」に話題を戻しますが、永田方正の「ニワトコの沢」説について改めて考えてみましょう。確かに Wikipedia には「魔除けにするところも多く、日本でも小正月の飾りやアイヌのイナウ(御幣)などの材料にされた」と記されています(原典は不明ですが)。

Wikipedia には次のようにも記されていました。

分布と生育環境
日本では、本州、四国、九州(対馬・甑島・種子島・奄美大島を含む)に分布し、山野の林縁にふつうにみられ、湿気があって日当たりのよい所に多い。日本国外では、韓国や中国に分布する。
(Wikipedia 日本語版「ニワトコ」より引用)
これを見る限り、北海道には「ニワトコ」は自生しないようにも思えるのですが、知里さんの「植物編」には「エゾニワトコ」という項目がありました。ただ、「エゾニワトコ」も名寄では sokon-ni と呼ばれていたとのことで、kikin-ni を「ニワトコ」と考えるのはちょっと厳しいような気がしてきました。

閑話休題(ということで)

o-{kikin-ni}-nay ですが、逐語訳では「河口・{エゾノウワミズザクラ}・川」となります。文法的には o-{kikin-ni}(-us)-nay で「河口・{エゾノウワミズザクラ}(・多くある)・川」と考えるべきなのかもしれませんが、-us があった形跡は見つかりませんでした(明治時代の地形図にも「オキキンニナイ」とありました)。

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