2019年11月4日月曜日

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北海道のアイヌ語地名 (675) 「パンケナイ川・ペンケナイ川・トヨマナイ川」

 

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

パンケナイ川

panke-nay
川下側の・川
(典拠あり、類型多数)
クンネシリ川の南、2001 年に廃止された「下中川駅」があったあたりを流れる川の名前です。「東西蝦夷山川地理取調図」では「問寒別川」と同レベルの大河として描かれています(理由は不明)。

順番が前後しましたが、「東西蝦夷山川地理取調図」では河口のところに「ハンケナイブト」と言う地名が描かれています。また「天之穂日誌」にも次のように記されています。

過て
     ハンケナイブト
左りの方平地に川巾十間計の沢有。遅流にして深し。前に洲有。むかしは此処に弐十三軒程人家有しとかや。然るに今は一軒もなし。其子孫今弐三軒浜とトマヽイに残り居るよしなり。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.492 より引用)
……改めて眺めてみると、わざわざ引用することも無かったですね(汗)。panke-nay は素直に「川下側の・川」と解釈すれば良さそうです。

ちなみに、「パンケナイ川」の支流に「林道沢川」という川があるのですが、その「林道沢川」(あるいはその支流)を遡った先に「パンケ山」という山もあります。このあたりは川名と山名が(あるいは山名と川名が)セットになっているケースが目立ちますね。

ペンケナイ川

penke-nay
川上側の・川
(典拠あり、類型多数)
「パンケナイ川」の河口から 1.5 km ほど南(上流側)に遡ったあたりで天塩川に合流する、同じく東支流の名前です。「東西蝦夷山川地理取調図」にも「ヘンケナイ」と描かれています。

「天之穂日誌」には次のように記されていました。

此処に燕多し、少し上りて
     ヘンケナイヒタリ
洲有。此当りに成柳の木多く生たり。又未・午・巳のみと針を取て、
     ヘンケナイトボ
左りの方川有。巾七八間、遅流にして深し。此上に沼一ツ有。其に芰実有るよし。針位未向。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.493 より引用)
「ヘンケナイヒタリ」の「リ」には(ラ)とルビが振られていたので、おそらく「ヘンケナイヒタラ」だろうと考えて良さそうですね。

注意すべきは、「東西蝦夷山川地理取調図」によると「ヘンケナイヒタラ」と「ヘンケナイトウホ」は天塩川の西側の地名として描かれているところです。「天之穂日誌」には「左りの方」に「ヘンケナイトボ」という「川」があるように記されているのに対し、「東西──」では「右の方」の川?として描かれています。

「ヘンケナイヒタラ」は {penke-nay}-pitara で「{ペンケナイ}・川原」だと思われます。「ヘンケナイトボ」あるいは「ヘンケナイトウホ」は {penke-nay}-{to-po} で「{ペンケナイ}・{小沼}」でしょうか。「天之穂日誌」には「此上に沼一ツ有」とあるので、「ペンケナイ」の上流部に小さな沼がある、ということかもしれません。

「ヘンケナイ」の他に「ヘンケナイヒタラ」や「ヘンカナイトウホ」が出てきて一瞬「むむむっ?」となりましたが、結局の所は「ヘンケナイ」という川とその付随物と見て良さそうですね。penke-nay は「川上側の・川」と考えていいかと思います(ここまで引っ張る必要あった?)。

トヨマナイ川

penke-tuye-oma-nay
川上側の・切る・そこに入る・川
(典拠あり、類型あり)
中川町の市街地は、JR 宗谷線と天塩川に挟まれた狭いエリアに広がっています(もともとは天塩川が西側を蛇行していたのですが、天塩川がまっすぐ流れるように改修されたことで、余計狭くなった印象もあります)。「トヨマナイ川」は中川の市街地の南端部、天塩川と JR 宗谷線が最も接近したあたりで合流する東支流です。

「東西蝦夷山川地理取調図」には「トイヲマヘツ」と「ヘンケトイヲマヘツ」という川が並んで描かれています。また明治時代の「北海道地形図」には「パンケト゚イェオマナイ」と「ペンケト゚イェオマナイ」という川が並んでいます。現在の地形図と見比べてみると、「パンケト゚イェオマナイ」が「銅蘭川」で、「ペンケト゚イェオマナイ」が「トヨマナイ川」のように思えます(違っていたらすいません)。

「天之穂日誌」には次のように記されていました。

こへて洲有。柳・赤楊多し。
     トイヲマナイ
左りの方小川。此右の方に山有り。上に松多し。よつて黒く見ゆ。
     ベンケトイヲマナイ
左りの方小川、此処右岸にカンヒの木多し。山一面に白く見ゆ。其木よく生長したり。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.496 より引用)
肝心の「トイヲマナイ」の意味については永田地名解に記載がありました。

Panke tuye oma nai  パンケ ト゚イェ オマ ナイ  下ノ潰川
Penke tuye oma nai  ペンケ ト゚イェ オマ ナイ  上ノ潰川
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.412 より引用)
penke-tuye-oma-nay は「川上側の・切る・そこに入る・川」と解釈できそうでしょうか。「トイ」系の地名は、調味料として用いたとされる珪藻土を意味する toy に由来することが多いのですが、ここは toy ではなくて tuye だったようです。

tuye は白糠の「恋問」などと同じく「切る」という意味ですので、天塩川が形成した自然堤防を「切る」ような川だった、ということでしょうか。

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