(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
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歌内(うたない)
(典拠あり、類型あり)
中川町北部の地名で、JR 宗谷線に同名の駅もあります。ということで毎度おなじみ「北海道駅名の起源」を見てみましょうか。歌 内(うたない)
所在地 (天塩国) 中川郡中川町
開 駅 大正 12 年 11 月 10 日
起 源 もとアイヌ語の「ウッ・ナイ」(細いわき川)からとって、「宇戸内」としたが、昭和 26 年 7 月 14 日、「歌内」と改めたものである。
(「北海道駅名の起源(昭和48年版)」日本国有鉄道北海道総局 p.180 より引用)
ut-nay で「あばら・川」と考えられそうですね。「あばら川」というのは、肋骨が背骨に対して直角に繋がっているように、本流に対して直角に近い角度で合流する支流のことを指す……とされます(あるいは utka で「川の波立つ浅瀬」を意味する場合もあります)。ちなみに駅名は「歌内」ですが、川の名前は今でも「宇戸内川」のままです。昔の地図で河口の形状を確認してみましたが、まぁ「あばら川」と言えなくはないかな、と言った感じでしょうか。天塩川の流路が大幅に改修された結果、現在のほうが「あばら川」と言うに相応しい形となっているのが面白いですね。
ただ、「天之穂日誌」には次のように記されていました。
ウ ツ ー
ウツーは瀬也。此処浅瀬にて下は大磐石。急流也。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.489 より引用)
うーん。「天之穂日誌」はどうやら utka 説のようですね。ut-nay で「浅瀬・川」と考えたほうがいいのかもしれません。道内(や北東北)には「歌」のつく地名が多いですが、その多くは ota(砂浜)の転訛したものとされます。ただ、ここは ut が「歌」になったという、比較的珍しいケースだったようです。
クンネシリ山
(典拠あり、類型多数)
歌内駅の東に聳える標高 280 m の山の名前です。クンネシリ山には頂が三つあるようで、それぞれ 274 m、280 m 、263 m とのこと。まるで「山」という漢字の原型のような形なんですね。大正時代の「陸軍図」には「クンネシリ山」と、麓の「クンネシリ」集落が描かれています。一方で明治時代の「北海道地形図」には「クンネシリ」の記載はありません。
「東西蝦夷山川地理取調図」には「クン子シリ」が描かれていますが、天塩川の西側の山として描かれています。
「天之穂日誌」には次のように記されていました。
ウ ツ ー
ウツーは瀬也。此処浅瀬にて下は大磐石。急流也。
ホンウツー
同じく磐石浅瀬に成急流。こへて又左り小川、
クン子シリ
此処針位酉に向ふ也。右の方平山。少しの岳有。皆松にて遠く成処より眺むれば黒く見ゆ。よってクン子シリと云なり。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.489 より引用)
ああ、これは確かにややこしいですね。これだと「こへて又左り小川」が「クン子シリ」という名前であると勘違いしてしまいそうですが、実際の「クン子シリ」は「右の方平山」であるように思われます。現在の「クンネシリ山」はとても「右の方平山」とは言えず、「左りの方」のそこそこ立派な山ですが、もしかしたら「天之穂日誌」を読み間違えたのかもしれませんね。
また、「東西蝦夷山川地理取調図」には「フウ子シリ」という名前の山も描かれています。「クンネシリ山」の東に標高 399 m の無名峰がありますが、この山か、あるいは現在「クンネシリ山」と呼ばれている山が、実は「フウ子シリ」だったのかもしれません。pu-ne-sir であれば「倉・のような・山」となるため、どちらかと言えば 399 m の無名峰を指してそう呼んだんじゃないかな、と想像しています。
「クンネシリ山」の南を「クンネシリ川」が流れていますが、「東西蝦夷山川地理取調図」を見た感じでは「ホロヒリ」と呼ばれていた川に相当するでしょうか。poro-piri で「大きな・その傷」と解釈できそうです。
本題をすっかり忘れてしまっていましたが、「クンネシリ山」は kunne-sir で「黒い・山」と考えられそうです。なぜ「黒い山」と呼んだかは、「天之穂日誌」によれば「松に覆われた山なので、遠目には黒く見えた」とのこと。実際の「クンネシリ」は「コクネップ川」の上流部のあたりを指していたと思われます。
ただ「天之穂日誌」には「ヘンケクン子シリ」という山が「右りの方平山」として記されています。これが「左りの方」なのか、あるいは「右の方」なのかは……謎です。
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