2019年9月15日日曜日

北海道のアイヌ語地名 (661) 「ヌップコマナイ川・ニカリウシナイ川・ポンニカリウシナイ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

ヌップコマナイ川

nupka-oma-nay?
野原・そこに入る・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
現在の羽幌川は羽幌の市街地の北東側を流れていますが、これは 1975 年から 11 年かけて掘削した新川で、本来は道の駅の西側を流れていました。現在「福寿川」という名前になっている川が、かつての羽幌川です。

ヌップコマナイ川は、羽幌川の新川に注ぐ北支流の名前です。羽幌川の河川改修の結果、羽幌川の支流になってしまいましたが、元々は独立河川だったということになります。「インディーズ」だったということになりますね。

このあたりの情報を加味して「東西蝦夷山川地理取調図」を眺めてみると……あれ、どこにも記載がありませんね(汗)。

改めて「竹四郎廻浦日記」を眺めてみると、妙なことに気が付きました。

 川巾六十間余。渇水の時は三十間位に成。遅流にして深し。少し上りてヌツホコマツフ、又しばし行て ウリルンナイ、並びて ヘンケウリルンナイ、また並びて チヱハホシロ、また並びて カマイタルンナイ等皆右の方也。
松浦武四郎・著 高倉新一郎・解読「竹四郎廻浦日記 上」北海道出版企画センター p.509-510 より引用)
この「ヌツホコマツフ」が「ヌップコマナイ川」ではないかと思われるのですが、「竹四郎廻浦日記」には「羽幌川の支流」として記されています。また「西蝦夷日誌」にも「羽幌川を遡る」として次のように記されていました。

六月十三日(安政三巳〔辰〕)。小舟にて上る。澤目廣く、水遅流にて、しばしにてヌツホコマフ(右川)、ウリルンナイ(同)、ベンケウリルンナイ(同)、チエツホンロ(同)、カマイタルンナイ(同)等、皆右の方にあり。
(松浦武四郎・著、吉田常吉・編「新版 蝦夷日誌(下)」時事通信社 p.269-270 より引用)
「武四郎廻浦日記」の記述だけでも「あれっ」と思わせるものでしたが、「西蝦夷日誌」の記述は明瞭なので、明らかに「おかしいぞ」と確信が持てます。いずれも「ヌツホコマフ」あるいは「ヌツホコマツフ」は「右支流」、すなわち「南支流」として記録されているのですね。

現実の「ヌップコマナイ川」は羽幌川の北側を流れていて、しかも羽幌川の支流ではなく独立河川です。「東西蝦夷山川地理取調図」を見ると該当する位置に「エカウシナイ」という名前の川が描かれているので、元々「エカウシナイ」だったのがなにかの拍子に「ヌップコマナイ川」に取り違えられてしまったようです。

「ヌップコマナイ川」は nupka-oma-nay で「野原・そこに入る・川」と読めそうです。羽幌公園の東側を「出雲川」という川が流れていますが、もともとは出雲川が nupka-oma-nay と呼ばれていた可能性もありそうですね。

ちなみに「エカウシナイ」のほうは ika-us-nay で「渡渉・いつもする・川」と読めそうに思えます。

ニカリウシナイ川

nikar-us-nay?
はしご・ある・川
(? = 典拠あり、類型未確認)
羽幌町潮見の南側あたりを流れる川の名前です。台地の上を流れる流量の少なそうな川ですが、なんと永田地名解に記載がありました。

Nikari ush nai  ニカリ ウㇱュ ナイ  階子アル川
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.405 より引用)
「西蝦夷日誌」にも同様の記載がありました。

 又海岸通りは(四丁三十間)ニカルウシナイ(小岬)、名義、階有川と云。
(松浦武四郎・著、吉田常吉・編「新版 蝦夷日誌(下)」時事通信社 p.271 より引用)
「ニカルウシナイ」は nikar-us-nay と考えられますが、確かに nikar には「はしご」という意味があります。従って「はしご・ある・川」と解釈できそうです。橋の代わりにはしごを渡していたのでしょうか。

念のため補足しておきますと、ni-kar-us-nay であれば「木・採る・いつもする・川」となりますし、nikur-us-nay であれば「林・ついている・川」と読めそうです。「はしごのある川」というのはこれまで見聞きした記憶が無いので、あるいは……と思いまして。

ポンニカリウシナイ川

o-sir-us-nay?
そこに・水際の断崖・群在する・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
羽幌町潮見の北側あたりを流れる川の名前です。もっとも地理院地図に川として記載されているのは国道と海の間の 200 m ほどで、国道から上流部は川としての記載がありません。雨でも降らない限り流れの無い川なのかもしれません。ニカリウシナイ川と同じく台地の上を流れる川で、100 m ほどで高度差 20 m を駆け下りる、崖を滑り落ちるような川でもあります。

「ポンニカリウシナイ」は pon-nikar-us-nay で「小さな・はしご・ある・川」と読み解けます。ただ、面白いことに「東西蝦夷山川地理取調図」や「西蝦夷日誌」などには記載が見当たらず、代わりに「ヲチウシナイ」という名前の川が描かれています。

この「ヲチウシナイ」ですが、ochirusi-nay ではないかなぁと考えています。ochirusi 自体で「断崖」を意味しますが、より細かく読み解くと o-sir-us-i で「そこに・水際の断崖・群在する・ところ」とのこと。-i-nay はかぶるので、より正確には o-sir-us-nay で「そこに・水際の断崖・群在する・川」あたりかもしれません。

「この川は『ポンニカリウシナイ』であって、『ヲチウシナイ』は関係ないんじゃないの」というツッコミもあろうかと思いますが、えーとまぁ……いいじゃないですか(逃げたな)。

前の記事続きを読む

www.bojan.net
Copyright © 1995- Bojan International


0 件のコメント:

コメントを投稿