(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
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三毛別(さんけべつ)
(典拠あり、類型あり)(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
苫前町南東部の地名です。言わずとしれた「三毛別羆事件」発生地ですが、「三毛別羆事件復元地」があるのは、正確には三毛別川の支流の「ルペシュペナイ川」沿いです。「──復元地」に向かう途中で「射止橋」という橋を渡りますが、その直前に「← 苫前ダム」という案内があります。三毛別川の本流は苫前ダムのあるほうです。お隣の羽幌町にも、築別川の支流で「三毛別」があります。混同しないようご注意ください。
また、現地に行かれた方はお気づきと思いますが、「三毛別」と「三渓」という表記が混同されている節があります。このあたりが「三渓」という地名になったのは昭和 13 年で、羆事件の 23 年後に改名されたということになります。
「西蝦夷日誌」には、「コタンベツ」の支流として「サンケベツ(右川)、是第一の支流也」と記されています。
「東西蝦夷山川地理取調図」には「サケヘニシヘツ」という名前で描かれています(「サケニヘシヘツ」の支流として「チライ」や「ヘンケチライ」、そして「ホンナ?フ」が描かれています)。
また、不思議なことに「北海道蝦夷語地名解」には「三毛別」に相当する川を見つけられませんでした(見落としだったらすいません)。
「三毛別」は、sanke-pet で「山から浜に出す・川」と解釈することができます。山田秀三さんはこれを「雪解けや長雨の際に増水する川」ではないかと考えて、初山別村での調査の帰りにわざわざ三毛別に立ち寄り、地元の老人に仮説の妥当性を確かめたところ、好意的なフィードバックがあったとのこと。そのため現在では「増水する川」説が一般的のようです。
前述の通り、「西蝦夷日誌」や「竹四郎廻浦日記」には「サンケベツ」と記されていますが、「東西蝦夷山川地理取調図」には「サケヘニシヘツ」と描かれていました。仮に「サケヘニシヘツ」が「サンケニペシペツ」なのであれば、sanke-ni-pes-pet で「山から浜に出す・木・それに沿って下る・川」と読めそうな気もしてきました。
ただ、ni-pes という解釈が成り立つかは少々微妙で、nipes で「シナノキの皮」と解釈するほうが一般的な気もします。
また、山田さんの旧著「北海道の川の名」には、別の仮説も記されていました。興味深いものなので、紹介しておきます。
なお、頂上が平らで細長い山をサン(san 棚山)と呼ぶ。もしかしたら、San-ke-pet(棚山の・処の・川)だったのかも知れない。
(山田秀三「北海道の川の名」モレウ・ライブラリー p.76 より引用)
あっ……地形図ではそれらしい山形が見られるが、これは現地に行って、山容を眺めなくては、そういい切れない。
(山田秀三「北海道の川の名」モレウ・ライブラリー p.76 より引用)
フィールドワークを重視する山田さんらしい感想ですね。それはそうと、確かに地形図を見てみると、古丹別の集落の南東から三毛別川に沿って、まさしく san(棚山)と呼ぶに相応しい山が伸びています。san-ke-pet で「棚山の・ところの・川」という解釈も、個人的には十分に妥当性が感じられるのですが……。ルペシュペナイ川
(典拠あり、類型多数)
「ルベシュベナイ川」と表記されている場合もあります(地理院地図に準拠して「ルペシュペナイ川」としています)。道道 1049 号「苫前小平線」の「射止橋」の東で三毛別川に合流する南支流の名前です。三毛別川沿いを通っていた道道 1049 号は、「射止橋」から先は支流であるルペシュペナイ川沿いを通って小平を目指します(……が、小平までは未開通です)。
「ルペシュペナイ」は ru-pes-pe-nay で「道・それに沿って下る・もの・川」ということになりますが、本来、-pe(もの)は「川」を意味するとされます。つまり「ルペシュペナイ川」は「道・それに沿って下る・川・川・川」と言うことになってしまいます(汗)。
nay は必ずしも「川」を意味しないのではないか、もっと言えば「川」ではなく「谷」と考えるべきではないか……という説もありますが、こういった例を見てしまうと、改めて検討すべき説かもしれませんね。
ニセイウシュナイ沢
(? = 典拠未確認、類型多数)
道道 1049 号の「射止橋」の北側から東に向かうと、三毛別川に設けられた「苫前ダム」にたどり着きます。ニセイウシュナイ沢は苫前ダム湖の南東側に注ぐ支流の名前です。「ニセイウシュナイ」は nisey-us-nay で「断崖・ついている・川」と考えて良いかと思われます。
サカンベツ沢
(??? = 典拠なし、類型未確認)(?? = 典拠なし、類型あり)
ニセイウシュナイ沢の東側を流れて、ニセイウシュナイ沢よりも上流側で三毛別川に合流する南支流の名前です。この川を源流部まで遡ると「佐官別山」があり、分水嶺の向こう側(小平町側)には「砂寒別川」が流れています。小平側の「砂寒別川」は、古い地図には「ソウシュベツ沢」あるいは「ソウシベツ沢」と記されていました。そのため、一連の「サカンベツ」は今回取り上げる「サカンベツ沢」に由来するのではないか、と考えています。
sak は「夏」で、an は「ある」と言った意味ですから、sak-an-pet で「夏・ある・川」と読めるのかもしれません。ただ、サカンベツ沢の東西(特に東側)に「棚山」と呼べそうな山が伸びています。もしかしたらそのことから san-ka-an-pet で「棚山・かみて・ある・川」と呼んだ可能性もあるんじゃないか、と思い始めています。
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sanke-pet
返信削除山から浜に出す・川
sankeは、他動詞ですから、文法的に破綻しています。
自動詞の名詞化と考えるとしても、この形式では自動詞の名詞化と考えるのは不可能です。
この地名については、既に「アイヌ語地名研究」誌で発表されています。