(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。なお、栗山町のところに「空知郡」とあるのは地理院地図の間違いです。
杵臼(きなうす)
(典拠あり、類型多数)
栗山町東部の地名で、同名の川もあります。kina-us-i で「草・多くある・もの(川)」だと思われますが、更科さんの「アイヌ語地名解」に記載があったので見ておきましょう。杵臼(きなうす)
栗山町のうち角田市街の東にある部落名であるが、千歳市にも同名のところがある。しかしこれはキ・ウㇱで荻のたくさんあるところをさし、栗山町の杵臼はキナ・ウㇱであって、蓆に織るえぞすげや蒲などの多くある所ということ。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.71 より引用)
千歳にあるのは「キウス周堤墓群」で有名な(そして PA もある)「キウス」でしょうか。ki は一般的に「茅」などを意味し、kina は「草」を意味しますが、たまたま同じ字を当てたのでややこしいことになった、ということのようです。阿野呂(あのろ)
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
栗山町の市街地から見て南東に位置するあたりの地名で、同名の川(夕張川の東支流)もあります。「東西蝦夷山川地理取調図」には「アノロブト」「ホンアノロ」「ユヲマアノロ」「トホシアノロ」「シンノシケアノロ」「キムンクシアノロ」などが描かれています。「ユヲマアノロ」は「湯の出るアノロ」あたりでしょうか。昔の地形図を見ると、現在の「阿野呂川」本流のうち、道道 3 号から北の部分には「エキモマアンルル川」と記されています。また、道道 3 号やかつての「夕張鉄道」のΩカーブがあったあたりを流れる「富野川」および上流部の「大蛇の沢川」のあたりが「トクシアンルル川」だったようです。「トクシ──」は、もしかしたら chi-kus で「我ら・通行する」なのかもしれません。
肝心の「阿野呂」の解釈ですが、永田地名解には次のように記されています。
An ruru アン ルル 山向フノ海岸 今「アンヌロ」又「アヌル」ト云フ十勝ノ舊名ヲ「シアンルル」ト云フ「遠キ山向フノ海岸」ト云フ義、此ハ石狩土人ノ名ク所ナリ十勝土人モ亦石狩夕張邊ヲ「アンルル」ト云フ檜山郡ニ安濃呂アリ此ハ茅部郡部落土人ノ名ク所ナリト此ニ據レバ「アンルル」ノ地名アル處ハ往古海岸ナルコト疑ヒナカルベシ檜山の「安野呂川」と同じく an-rur で「反対側の・海」ではないか、と言う説のようです。「十勝の住人から見て『向こう側の・海』だから」という理屈に 9 行も費やして力説しているあたり、永田っちも内心「無理がある」と思っていたのかもしれません。
山田秀三さんは、旧著「北海道の川の名」にて、この謎な解について細かく検討を行っていました。
アㇽ(ar アㇻとも聞える)は、「一対あるものの片一方」の意。地名に使う場合には、たとえば海辺なら「山向うの」海岸地方をいう時にこの詞を使う。
後に続く語が r ではじまるときは ar から an に転音する。次にルル(rur)は「海」の意。この場合には「海辺の土地」のような意昧。それで ar-rur → an-rur となり、山向うの海辺となる。
(山田秀三「北海道の川の名」モレウ・ライブラリー p.30 より引用)
ここまでは良いですね。そして、話題は「『アンルル』という地名はかつて海岸だったと見て間違いない」という永田っちの謎理論に移って……阿野呂は内陸である。そこを rur(海)と呼んだろうか。少し変である。また永田氏は十勝アイヌが呼んだ名だとされた。しかし十勝とはだいぶ離れていて、ar(山向う)というには、何か変である。
(山田秀三「北海道の川の名」モレウ・ライブラリー p.30 より引用)
まぁ、常識的に考えると全くその通りなんですよね。そして、次のような試案を示していました。志幌加川筋の人がアロロ(ar-or 山向うの・処)とでも呼んでいて、それがアノロと訛ったのではないか。
(山田秀三「北海道の川の名」モレウ・ライブラリー p.30 より引用)
あー、なんかありそうな感じですね。ただ、山田さんはただし他地方にアロロの例がないので、少し苦しい試案である。
(山田秀三「北海道の川の名」モレウ・ライブラリー p.30 より引用)
と考えていたようです。また、「北海道の川の名」の改訂版とも言うべき「北海道の地名」では、もしかしたらアノロ(an-or 鷲捕りの雪穴あるいは小屋・の処)ぐらいの別な意味だったかもしれない。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.61 より引用)
という新たな試案が示されていました。an-oro で「鷲捕小屋・の所」というのは個人的にも一番しっくり来る案に思えます。www.bojan.net
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