やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の
地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。
美流渡(みると)
sir-utur-oma-p?
山・間・そこにある・もの
(典拠あり、類型あり)
岩見沢市東部の地名で、かつて国鉄万字線の「美流渡駅」があったところです。「美流渡」と書いて「みると」と読ませる、響きの美しい地名がどのようにして生まれたのか、気になるところですが……。
かつて駅があったということで、まずは「北海道駅名の起源」を見てみましょうか。
美流渡(みると)
所在地 (石狩国)空知郡栗沢町
開 駅 大正 3 年 11 月 11 日
起 源 アイヌ語の「ミユルトマップ」から出たといわれているが、意味は不明である。
(「
北海道駅名の起源(昭和48年版)」日本国有鉄道北海道総局 p.86 より引用)
駅の開業が大正 3 年で、しかも貨客どちらも扱っていたというところに驚いてしまいます。本題の「アイヌ語の『ミユルトマップ』」というのは確かに意味不明で、さてどう解釈したものか……。
山田秀三さんの「北海道の地名」には、次のように記されていました。
ミユルトマップはひどく訛った名であろう。このままでは解しようがない。
うわっ、一行で片付けられてしまいました。確かにこのままでは解釈のしようが無いのも事実なんですが。
さてどうしたものか……と思っていたところに救世主が現れました。
更科さんの「アイヌ語地名解」には、次のような明確な解釈が記されていました。
美流度(みると)
国鉄万字線の駅名、アイヌ語のシュルトルマップから出たという、シリ・ウトㇽ・オマ・プで、山の間にある川の意か。
ああああ、そういうことか! 「シュルトルマップ」が「ミユルトマップ」に誤記されて、そこから「美流渡」になった……というオチだったのではないか、ということですね。現時点では更科さん以外に典拠が無いですが、「シュ」を「ミユ」に誤記したというのは十分ありそうな話に思えます。
ということで、「美流渡」は
sir-utur-oma-p で「
山・間・そこにある・もの」と考えられそうです。おそらくは川の名前だと思われますが、これ以上書いてしまうと次が大変なことになるので……
マップ川
sir-utur-oma-p??
山・間・そこにある・もの
(?? = 典拠なし、類型あり)
栗沢町美流渡で幌向川に合流する北支流の名前です。川名は「マップ川」ですが、「幌向川ダム」があります。
「なんとかマップ」という地名は道内のあちこちで目にしますが、そのものずばり「マップ」という地名はあまり目にすることがありません。「真布」という地名が沼田町にあるようですが、これも「シルトルマップ」の省略形ではないかと言われています。あれ、そういえば「美流渡」も元を辿れば
sir-utur-oma-p という説を目にしたような……?
沼田町の「真布」が「シルトルマップ」の省略形だったというのは全くの偶然ですが、美流渡の近くに「シュルトルマップ」という川(おそらく)があったと考えられ、また「マップ川」の立地も
sir-utur-oma-p と呼ぶに相応しいことを考えると、「マップ川」こそが
sir-utur-oma-p だったんじゃないかな……と思えるんですよね。
ということで、「マップ川」は正確には
sir-utur-oma-p で、「
山・間・そこにある・もの」だったんじゃないかなぁ……と推察してみました。
シコロ沢川
kucha-un-nay
常設の山小屋・ある・川
(典拠あり、類型あり)
幌向川の南支流で、美流渡の少し上流で幌向川に合流しています。「シコロ」は「キハダ」の北海道・東北方言で、キハダはアイヌ語で
sikerpe と呼ばれています。「シコロ沢川」は「キハダの自生する川」と考えられるかもしれません。
ただ、この川はもともとは違う名前で呼ばれていたようで、明治時代の地形図では「クチャフシナイ」あるいは「クチヤウンナイ」と記されていました。
kucha は常設の山小屋・仮小屋のことで、
kucha-un-nay であれば「
常設の山小屋・ある・川」だったと考えられそうです。
kucha-un-nay という川名は、大正から昭和の頃にかけては地名としても現役だったようで、当時の地形図には「クッチャンナイ」と記されていました。「クチャウンナイ」が「クッチャンナイ」に変化したようですが、「倶知安」の影響なのか、それとも自然発生的に変化したのか、はてさて……。
ポンネベツ川
pon-net-pet??
小さな・流木・川
(?? = 典拠なし、類型あり)
国鉄万字線の終点だった「万字炭山駅」のすぐ北側で幌向川に合流する西支流の名前です。「ポンネベツ」があるなら「ポロネベツ」もありそうな気もしますが、ちらっと見た限りでは見当たりませんでした。
「ポンネベツ」を素直に読み解くなら、
pon-net-pet で「
小さな・流木・川」あたりでしょうか。流木と言っても巨大な丸太が流れてくるわけではなく、乾かすと焚き木に使えそうな小枝のことだったと思われます。故に
pon-net で「小さな・流木」なのかな、と考えたりもしますが、このような用法が成り立つのかどうかは、若干疑問も残ります。
あと、思い切った想像としては、このあたりでは幌向川が
{nay-e}-pet({水源}・川) に類する名前で呼ばれていて、その支流ということで
pon-{nay-e}-pet という可能性もあったりしないかな……というものもあります。もっとも、それだと隣に「ポンポロムイ川」が存在すること自体が大いなる矛盾となるわけですが。
‹ ›
www.bojan.net
Copyright © 1995- Bojan International