2019年1月19日土曜日

北海道のアイヌ語地名 (598) 「エペウンナイ川・クマウシュナイ川・トーフトナイ川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

エペウンナイ川

yupe-un-nay?
チョウザメ・いる・川
ipe-un-nay?
食物・ある・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
名寄市南西部、初茶志内山の南側を流れる天塩川の西支流の名前です。小さな川なので、地理院地図には名前が表示されていません(川としては描かれています)。

更科さんの「アイヌ語地名解」には、次のように記されていました。

 エペウンナイ川
 天塩川左小川。エぺ・ウン・ナイは食糧(植物性)の豊かな川の意。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.165 より引用)
ふむふむ。下川町の「エペウシュッペ沢川」と似たような感じで、ipe-un-nay で「食物・ある・川」ではないかと考えたのですね。

ただ、丁巳日誌「天之穂日誌」には全く違う解が記されていました。

此下を廻り行て二ヶ所程急瀬を越、
     ユウベウンヌ
右の方小川。其前一ツの渕有。此処までむかし潜竜沙魚上りし事有と云よし。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.105 より引用)
これを見ると、松浦武四郎は ipe ではなく yupe と認識していたように思われます。yupe-un-nay であれば「チョウザメ・いる・川」ということになりますね。「エ」が「ユ」に化けるのは、その逆も含めてちょくちょくある話です。

ということで、もちろん更科さんの解釈でも何らおかしな点は無いのですが、天之穂日誌の「チョウザメ」説も充分に仮説としてはあり得ると思えます。今日のところは両論併記でしょうか。

クマウシュナイ川

ku-ama-us-nay
仕掛け弓・置く・いつもする・川
(典拠あり、類型あり)
名寄市風連町西風連で天塩川に合流する西支流の名前です。今回もまずは更科さんの「アイヌ語地名解」を見てみましょうか。

 クマウシュナイ川
 クマ・ウㇱ・ナイで、魚を乾す棚の多い川の意で、昔豊漁だった川。天塩川の左小川。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.165 より引用)
「──で、──で、──。」という更科節が今日も冴え渡りますね。kuma-us-nay で「物干し棒・多くある・川」ではないか、という解釈のようです。

一方で、丁巳日誌「天之穂日誌」には次のように記されていました。

此処廻りて少し行や否、
     クワヽウシナイ
右の方小川、此辺に到りて河流いよいよ屈曲する也。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.105 より引用)
更科さんは「クマ」と読んでいましたが、ここでは「クワワ」となっています。明治の頃の地形図では「クアマウシュナイ」と記されていて、「東西蝦夷山川地理取調図」では更に間延びして「クウアマウシナイ」となっています。つまり、更科さんが「クマ」と考えたのは、本当にそうなのかな、とちょっと疑問に思えてきました。

「天之穂日誌」や「東西蝦夷山川地理取調図」の記載からは、ku-ama-us-nay で「仕掛け弓・置く・いつもする・川」と解釈することができます。常呂の「隈川」もそうですが、この 2 つの解釈は良く対立するんですよね。

「クマウシュナイ川」が昔から「クマ」として伝わっているのであれば更科説に傾くのですが、古い資料では軒並み「クママ」「クアマ」「クウアマ」となっているので、今回は ku-ama-us-nay 説をプッシュしておこうかな、と思っています。

トーフトナイ川

{to-putu}-nay?
あの沼の口・川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
天塩川の西支流で、「クマウシュナイ川」の南側を流れています。音からは {to-putu}-nay で「あの沼の口・川」と考えられそうでしょうか。

丁巳日誌「天之穂日誌」には「トツフトンナイ」とあり、「東西蝦夷山川地理取調図」には「トツフトシナイ」とあります。「トツフ」と top で「竹」と考えることもできるかもしれませんが、top-to-un-nay で「竹・沼・ある・川」と考えるのはちょっと無理やりかなー、と思えてしまいます。

更科さんの「アイヌ語地名解」には、次のように記されていました。

 トーフトナイ川
 天塩川の左小川・ト・プトは沼ロということだが、現在この附近に沼がない。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.166 より引用)
そうなんですよね。そこも引っかかる点ではあるのですが、他に妥当な解が考えられないということもあり、やはり素直に {to-putu}-nay で「あの沼の口・川」と考えるしか無さそうな気がします。もしかしたら、このあたりに三日月湖があったのかもしれませんね。

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