2018年12月16日日曜日

北海道のアイヌ語地名 (589) 「ヤムワッカナ沢川・幌加名寄沢川・ポンポロカナヨロ沢川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
地図をクリックしたら地理院地図に飛べたりします。

ヤムワッカナ沢川

yam-wakka-nay??
冷たい・水・川
(?? = 典拠なし、類型あり)
名寄川は、北海道で二番目に長い大河である天塩川の支流で、名寄市と下川町内を流れています。名寄川を遡ると、天北峠の手前までは国道 239 号沿いを流れ、その先は南に向きを変えています(川は南から北に流れています)。

「ヤムワッカナ沢川」はもっとも名寄川の水源に近いところで合流している支流のひとつで、合流する直前まで北北西から南南東に向って流れていることが特徴的な川です。

名寄川は、上流部では南から北に向って流れて、中流部以降は東から西に向って流れています。ヤムワッカナ沢川は、上流部では北西から南東に、中流部では西北西から東南東に、そして名寄川に合流する手前では北北西から南南東に向って流れる……ということで、まさに horka な(U ターンする)川、と呼ぶに相応しいものです。

やはりと言うべきか、昔の地形図でもこの川は「ホロカナヨロ」と記されていました。horka-{nay-oro} で「U ターンする・{名寄川}」と理解できますが、ところが現在はなぜか一筋南側の川が「幌加名寄沢川」を名乗っていて、かつての「ホロカナヨロ」は「ヤムワッカナ沢川」になってしまいました。

ヤムワッカナ沢川は、yam-wakka-nay で「冷たい・水・川」あたり……なのでしょうね。「稚内」の語源として知られる「ヤムワッカナイ」と全く同じ、と考えられそうです。

幌加名寄沢川

horka-{nay-oro}?
U ターンする・{名寄川}
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
ヤムワッカナ沢川の南隣を流れる川の名前です。この川も西から東に流れているため horka な川だと言えそうですが、前述の通り「ホロカナヨロ」は元々は現在の「ヤムワッカナ川」のことを指していたと考えられるため、どこかのタイミングで川の名前が取り違えられた可能性がありそうです。

今度こそ、horka-{nay-oro} で「U ターンする・{名寄川}」と考えていいかと思います。

ポンポロカナヨロ沢川

pon-{horka-nay-oro}?
小さな・{ホロカナヨロ}
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
ヤムワッカナ沢川と幌加名寄沢川が名寄川と合流したあたりから 1.2 km ほど北(川下方向)に向ったところで、南東から「ポンポロカナヨロ沢川」が合流しています。ポンポロカナヨロ沢川を遡ると柵留山(さっくる──)に出て、その向こう側は滝上町の原子川(の支流)に出ます。

ポンポロカナヨロ沢川は pon-{horka-nay-oro} で「小さな・{ホロカナヨロ}」と考えるべきでしょう。「ホロカナヨロ」については horka-{nay-oro} で「U ターンする・{名寄川}」です。nay-oro については「川・のところ」と考えて良さそうです。

「ポンポロカナヨロ」の妥当性

「ポンポロカナヨロ」の解釈はとても明瞭なのですが、その位置については大きな問題を抱えています。地形図を見るとわかるのですが、この「ポンポロカナヨロ沢川」はまったく horka (U ターン)している部分が無いのですね。

なぜ、全く horka していない川が「ポンポロカナヨロ」になってしまったのか……という話ですが、どうやら「東西蝦夷山川地理取調図」と丁巳日誌「天之穂日誌」の記述に由来するのでは、と思われます。「東西蝦夷山川地理取調図」にはほぼ現在の「ポンポロカナヨロ沢川」に相当する位置に「ホリカナヨロ」と記されていて、また丁巳日誌には

しばし行てヘタヌと云て二股、此処より左り
     ホリカナヨロ
右の方本川のよし也。此辺高山なりとかや。堅雪の節はサンルベシベより三日位にて行によろしと。夏秋冬は昔より誰も行くものなし。其源ホンテセウの北の方より落て来るよしなり。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「丁巳東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.88 より引用)
と記されてしまっています。

「ホリカナヨロ」(horka-{nay-oro})は、その地形的特徴から現在の「ヤムワッカナ沢川」のことを指していた……と考えています。丁巳日誌の記載で決定的に齟齬が有るのが「右の方本川のよし也」で、これが「左の方本川のよし也」であれば、すべての矛盾が解決することになります。

さらに想像を逞しくすると、現在「幌加名寄沢川」と呼ばれている川が、もしかしたら「ポンホロカナヨロ」(小ホロカナヨロ)だったのではないかな、と。川の地形的な特徴からすると、現在の「ヤムワッカナ沢川」が horka-{nay-oro} で、「幌加名寄沢川」が pon-{horka-{nay-oro}} だと考えるのが一番しっくり来るんですよね。

そして、現在「ポンポロカナヨロ沢川」と呼ばれている川が、元々は yam-wakka-nay だった……という可能性もゼロではないのかもしれません。

horka-{nay-oro} → ヤムワッカナ沢川
pon-{horka-{nay-oro}} → 幌加名寄沢川?
であれば
yam-wakka-nay → ポンポロカナヨロ沢川??
という可能性もあるんじゃないか、という想像です。

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