2018年4月29日日曜日

北海道のアイヌ語地名 (529) 「サンナコロ川・ホロカワウシャップ川・オワイタカ沢」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

サンナコロ川

san-enkor?
山から浜に出る・鼻
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
国道 237 号で平取町を北上し、再び日高町に入ったところに「岩知志ダム」があります。そこから更に北上すると「三岩橋」と「日高大橋」がありますが、「サンナコロ川」は日高大橋のすぐ北側で沙流川に注いでいます。

戊午日誌「東部沙留志」には次のように記されていました。

またしばし過て
     サンナコロ
右の方小川也。其名義は、鯨の尾を昔しひらひ持て居たりしが、空腹に成し時に此処にて喰て仕舞しと云事のよし也。
松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.71 より引用)
……なんか良くわかりませんね(汗)。クジラと言えば humpe という汎用的な語彙がありますが、知里さんの「動物編」を見ると、合計 24 もの表現が記されています。そのなかには sinokor-humpe で「イワシクジラ」なんてものもあったりしますし、???-kor-humpe で「何かを持つクジラ」という表現がいくつか見られるようです。

調査捕鯨のあり方の是非については日を改めて考えることとして(今の所その予定は無いです)、「サンナコロ」についてもう少し考えてみます。地形図をよーく見てみると、サンナコロ川と沙流川の間の山がかなり険しいことがわかります。

JR 根室本線に「御影」という駅がありますが、かつての名前は「佐念頃」でした。san-enkor で「山から浜に出る・鼻」と解釈できます。「鼻」というのは「岬」状の地形を意味しますが、海沿いに限らず山の中でも使用されます。サンナコロ川と沙流川の間の険しい山も「鼻」と呼ぶに相応しい地形に見えます。

ということで、「サンナコロ」も san-enkor で「山から浜に出る・鼻」と解釈するのが自然に思えるのですが、いかがでしょうか(クジラの話はどこ行った)。

ホロカワウシャップ川

{horka-an}-{u-sap}
{U ターンしている}・{ウシャップ川}
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
日高町(遠距離合併で良くわからないことになってしまいましたが、かつて国鉄の日高町駅があったあたりの日高町です)の旧名は「右左府」(うしゃっぷ)という名前でした。現在では国道 274 号線「石勝樹海ロード」と国道 237 号線が交差する交通の要衝で、道東道が開通するまでは道東と道央を行き来するトラックが右に左にと大盛況でした。

そんな姿から右左府の名が出た……わけは無く(そりゃそうでしょ)、右左府の左右を流れる(またややこしいことを)「パンケウシャップ川」と「ペンケウシャップ川」から「ウシャップ」という音を拝借して命名した……と言ったところでしょうか。

u-sap は「互いに・山から浜に出る(流れ落ちる)」と解釈できるようで、「パンケウシャップ」と「ペンケウシャップ」の両川を形容している、とされています。改めて考えてみると、「右左府」という字を当てたのは、メタ言及的な趣もあって面白いですよね。

本題の「ホロカワウシャップ川」ですが、左側(沙流川の下流側)を流れる「パンケウシャップ川」の支流で、南から北に向かって流れています。最終的には東に向きを変えて(北から南に流れる)パンケウシャップ川と合流するということで、典型的な horka(U ターンする)な川と言えそうです。

川を下流から源流方向に歩いた場合に、進行方向が 180 度近く変わってしまうことを horka(U ターンする)と形容します。結果的に遠回りを強いられることになるので、道としては「使えない」川ということになります。そのため、そういったルートの川を horka と呼んで、遠回りしないように気をつけていたのでしょうね。

「ホロカワウシャップ川」は horkau-sap であることはおおよそ理解できたのですが、「ワ」がどこから出てきたのでしょう。{horka-an}-{u-sap} で「{U ターンしている}・{ウシャップ川}」あたりかなぁ……と考えてみたのですが、いかがでしょうか。

……あ、文末の締め方がかぶった(汗)。

オワイタカ沢

o-hay-ta-{u-sap}??
そこで・イラクサ(の繊維)・切る・{ウシャップ川}
o-hay-ta-kar-i??
そこで・イラクサ(の繊維)・切る・取る・ところ
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
ペンケウシャップ川の東隣を流れる川の名前です。近くに水力発電所がありますが、占冠の「双珠別ダム」から取水しているみたいですね。

なんだか良く意味がわからないので、古い地形図を見てみたところ「オ アイタウレソプ」(あるいは「オアイタフレップ」かも?)と書いてあるようにも見えました。えー、更に訳がわからなくなったのですが……(汗)。

戊午日誌「東部沙留誌」には次のように記されていました。

またしばし過て
     ヲアイタカリ
左りの方小川。其名義昔し鹿を追て行しに、追附得ざりしかば、弓を放事る処、其矢不当しと云儀のよし。此辺に到りて東岸峨々たる高山有て樹木皆椴のよし也。右のかたさして高山なしとかや。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 下」北海道出版企画センター p.73 より引用)
……ますます良くわからなくなってしまいました(汗)。

えーと、ここまでの内容を全部無かったことにしてもいいですか?(ぉ) o-hay-ta-{u-sap} で「そこで・イラクサ(の繊維)・切る・{ウシャップ川}」と考えることはできないでしょうか? これを多少カスタマイズすれば o-hay-ta-kar-i で「そこで・イラクサ(の繊維)・切る・取る・ところ」となって「ヲアイタカリ」っぽいかな、などと考えてみたのですが、いかがでs(ry

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