2018年3月25日日曜日

北海道のアイヌ語地名 (520) 「オモンベツ川・倶多楽湖・クッタリウス川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

オモンベツ川

o-mu-un-pe
河口・塞がる・そうである・もの
(典拠あり、類型あり)
白老町の「虎杖浜」の西を「アヨロ川」という川が流れていますが、オモンベツ川は JR 室蘭本線と国道 36 号線の間でアヨロ川と合流する支流の名前です。

永田地名解には次のように記されていました。

O mu un pe  オ ム ウン ペ 川尻ノ塞ル川 旱スレバ塞リ浪スレバ破裂ス故ニ此名アリ幌別土人ハ「オムンベペッ」ニシテ股引即チ二股川ナリト云ヒシハ非ナリ
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.207 より引用)※「浪」は正しくは「氵勞」

あっ、なるほど。確かに o-mu-un-pe で「河口・塞がる・そうである・もの」と解釈することができますね。そして確かに omompe は「股引」を意味するそうです(笑)。永田っちは「非なり」としていますが、アヨロ川とオモンベツ川が見事に途中で二手に分かれているのも確かなんですよね。

ところで、omompe で「股引」を意味するそうですが、発音はどちらかと言えば「モンペ」に似てますよね。これは偶然の空似なのか、それとも……?

倶多楽湖(くったら──)

kuttar-us-to
イタドリ・多くある・湖
(典拠あり、類型あり)
白老町の南西部に位置する湖の名前です。きれいな円形の湖ですが、これは火山のカルデラ全体に水が溜まってできたからだとか。カルデラ自体もとてもきれいな形をしていて、流入河川・流出河川ともに存在しないというのも特徴的です。

「東西蝦夷山川地理取調図」には、湖のあたりに「クツタルシ」と記されています。倶多楽湖から見て南南東の方角に「虎杖浜」というところがあるのですが、この地名の由来が kuttar-us-iイタドリ・多くある・ところ)でした。

山田秀三さんの「北海道の地名」には、次のように記されていました。

倶多楽湖 くったらこ
 白老町内の湖沼名。登別温泉の裏,虎杖浜からいえばその上の処の山中に美しい小カルデラ湖があって倶多楽湖と呼ぶ。クッタルシ・トーと呼ばれたもので,たぶん「虎杖浜の・湖」の意であろう。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.385 より引用)
そういえば「たーらーこー」を連呼する歌がありましたよね(全く関係ない)。

さて。山田さんは「倶多楽湖」が kuttar-us-to と呼ばれていたことから「虎杖浜の・湖」だったのではないかとの推察していました。ただ、「東西蝦夷山川地理取調図」では湖のところに「クツタルシ」と記されていて、虎杖浜のあたりには「ヲモンヘ」や「ヒンナイフ」(永田地名解に「ピンナイ プト゚」という項目あり)という地名が並ぶものの、「クツタルシ」に相当する文字はありません。

このことから、山田さんの推論とは逆で、kuttar-us-i は元々「倶多楽湖」のあたりを指す地名?だった可能性もあるんじゃないかなぁと思ったりもします。

クッタリウス川

kuttar-us(-nay?)??
イタドリ・多くある(・川)
(?? = 典拠なし、類型あり)
虎杖浜と竹浦の間を流れる川の名前です。これも kuttar-us(-nay?) で「イタドリ・多くある(・川)」と考えるのが自然なのですが、古い記録には該当する川が見当たりません。

そして「ヒンナイフツ」あるいは「ピンナイプト゚」という地名が失われているのですが、前後関係を考えると現在の「クッタリウス川」の河口あたりがそうだったと考えられそうです。

「ヒンナイ」あるいは「ピンナイ」は pin-nay で「傷・川」だったと考えられるかと思います。具体的には「山容を深くえぐる川」を形容した表現なのですが、クッタリウス川もほぼ真っすぐ山に切り込んでいるように見えます。

問題は、なぜ「ピンナイ」という川名が「クッタリウス川」に変わったか、なのですが、これは……なぜでしょうね。倶多楽湖のカルデラの東側に「窟太郎山」という傑作な名前の山があるのですが、クッタリウス川を遡るとちょうど「窟太郎山」のあたりに出る……と言えなくも無いです(それがどうした、という話でもあるのですが)。

まぁ、アイヌの川の名前も不滅不変という訳では無く、時代とともに変遷することも無いわけでは無いので、ここもその例だったということでしょうか……。

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