(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
ペンケルペシュベ川
(典拠あり、類型多数)
遊楽部川の南支流の名前です。道道 42 号「八雲北檜山線」には「ペンケルペシュペ橋」が架けられています。最後が「ベ」か「ペ」かという違いがありますが、古い地形図にも「ペンケルペシュペ川」とあるので、どちらかと言えば「ペ」が優勢と言った感じでしょうか。ペンケルペシュベは penke-ru-pes-pe で「川上・道・沿って下る・もの」でしょう。一応、永田地名解を引いておきましょうか。
Penke rupeshbe ペンケ ルペシュベ 上ノ路 北路ニ順テ下レバ爾志郡「ケネオチ」川ノ水源ニ出ヅト云フ確かに「ペンケルベシュベ川」を遡ると、ペンケ岳の南側で分水嶺を越えて、見市川の源流の一つ「スベリ沢」にたどり着くことができます。ただ絶対的な標高が雲石峠と比べると高すぎたからか、地形図では獣道の存在すら確認できません。
penke(川上)があるということは panke(川下)もある筈なのですが、かつての panke-ru-pes-pe は現在は「鉛川」という名前に変わってしまっています。上流で鉛が取れたということで「鉛山」と呼ばれるようになり、川も「鉛川」になった……と言ったところでしょうか。現在の国道 277 号「雲石峠」は、この鉛川沿いのルートを通っていますね。
余談ですが、「砂蘭部川」も元々は「パンケサラウンベッ」だったようですね。対をなす「ペンケサラウンペッ」は現在の「音名川」がそれにあたるようです。「音名川」は「おとな──」と読むようですが、onne(長じた──)と関連があったりしたら面白いですよね。
そんなわけで、「パンケ」と「ペンケ」がしっかりと対を成していたのも今は昔、遊楽部川の南支流には「ペンケルペシュベ川」だけがひっそりと生き残っている、と言った感じでしょうか。
OpenStreetMap を見ると、ペンケルベシベ川(あれ?)の西隣に「ペンケル川」という川の存在が示唆されています。この名前がどこから出てきたのか、ちょっと気になるところです。
キソンペタヌ川
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
八雲町で噴火湾に注ぐ遊楽部川には多くの支流があるのですが、キソンペタヌ川は遊楽部川の「最後の支流」とでも言うべき存在です(もっとも上流部で遊楽部川に合流している)。「ペタヌ」は道南に多く見られる地名で、pet-aw で「川・枝」を意味します。問題は「キソン」のほうでして、色々と考えてみたのですが適切な解が浮かんできません。「キソン」は「キムン」の誤字?で、kim-un で「山・にある」と考えるのが自然でしょうか。
「キソン」が「キムン」の誤字ではないかと考える背景ですが、同じく遊楽部川の支流である「ペンケルペシュベ川」の上流部に「ペンケペタヌ」という川があったと見られるのですね(「東西蝦夷山川地理取調図」や「北海道測量舎五万分一地形図(模写)」などに記録があります)。このペンケペタヌは「ペンケ岳」の北から北東のあたりを水源としていました。
一方、「キソンペタヌ川」の水源はペンケ岳の西側で、前述の「北海道測量舎五万分一地形図」には「ペンケペタヌ」と記されていました(別の図幅には「キソンペタヌ」とあったので、もしかしたら「ペンケペタヌ」は勘違いに基づく誤記だったのかもしれませんが)。
「ペンケペタヌ」が複数存在してしまったということで、より山奥のほうの「ペンケペタヌ」を「キムンペタヌ」で「山・にある・川・枝」と呼んだ……という可能性は無いかなぁ、と考えたりしています。
「北海道測量舎五万分一地形図」の別の図幅には、「キソンペタヌ」の横に鉛筆で「一名ペーユペタヌ」という但し書きが添えられていました。pe は「水」ですし yu は「湯」ですが、さてどういう意味でしょう……?
セイヨウベツ川
(典拠あり、類型あり)
八雲と北檜山(せたな町)を結ぶ道道 42 号「八雲北檜山線」は遊楽部川沿いを通って北檜山に向かいますが、途中からは支流のセイヨウベツ川沿いを通ります(峠を越えた先は太櫓川です)。では、早速ですが永田地名解を見てみましょうか。
Seyo pet, =Sei-o-pet セヨ ペッ 貝石多キ處 此川上ニ貝ノ化石多シ
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.165 より引用)
相変わらずアルファベット表記が無駄に凝っているあたりが永田さんらしいですね。sey-o-pet だと「貝・多くある・川」となります。田村すず子さんの「アイヌ語沙流方言辞典」によると、sey は「①二枚貝。②ホッキ。③二枚貝の貝がら、ホッキの貝がら」とあります。永田さんが「貝の化石」としたのは少々謎ですね。
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