(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
札苅(さつかり)
(典拠あり、類型あり)
かつての JR 江差線を引き継いた「道南いさりび鉄道」には、木古内町内に「釜谷」「泉沢」「札苅」「木古内」の 4 つの駅があります。「泉沢」は和名っぽいのでスキップして、今回は「札苅」です。駅名と言ったらまずは……「北海道駅名の起源」から。
札 苅(さつかり)
所在地 (渡島国) 上磯郡木古内町
開 駅 昭和 5 年 10 月 25 日 (客)
起 源 アイヌ語の「シラッ・ツ゚カリ」(岩礁の手前)から転かしたものである。
(「北海道駅名の起源(昭和48年版)」日本国有鉄道北海道総局 p.16 より引用)
ほう……。「竹四郎廻浦日記」も「東西蝦夷山川地理取調図」も、どちらも「札苅」と漢字で書かれていたので悩んでいたのですが、なるほどなるほど。永田地名解にも次のように記されていました。
Shirattukari シラット゚ カリ 岩磯ノ此方 札苅村ノ原名、舊地名解ノ説ヲ參酌スふむふむ。どうやら素直に sirar-tukari で「磯・の手前」と考えて良さそうですね。
木古内(きこない)
(典拠あり、類型あり)
北海道新幹線の駅がある町で、道南いさりび鉄道の終着駅でもあります。かつては国鉄江差線と国鉄松前線の分岐駅でもありました。今も昔も交通の要衝ですね。今回は「北海道駅名の起源」を見る前に、上原熊次郎の「蝦夷地名考并里程記」を見ておきましょう。
喜子内 休所営別迄四里半
夷語リコナイなり。登る沢と鐸す。リコとは高く登ると申事。ナイは沢の事にて此澤邊自然と高く上る故に地名になすといふ。扨、此処~西在江指幷上の国江の山道ありて喜子内~柳堀迄二里程、夫よりイナヲ峠江二里 小休所有箱館江指 境なり。
(上原熊次郎「蝦夷地名考并里程記」草風館『アイヌ語地名資料集成』p.41 より引用)
rik には「高い」という意味がありますから、rik-o だと「高い所・多くある」となりますね。知里さんの「──小辞典」にはこんな用例がありました。rik-o-p 〔リこㇷ゚〕[高い所・に群在する・者]星。地名の中に出てくる o はこの意であることが多い。
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.71 より引用)
利尻に nociw で「星」という地名があったのは覚えているのですが、rik-o-p という地名は記憶にありません。今後気をつけてみます。さて、それでは知内……ではなくて真打ちにご登場願いましょうか。
木古内(きこない)
所在地 (渡島国) 上磯郡木古内町
開 駅 昭和 5 年 10 月 25 日
起 源 現在の木古内川をむかしアイヌ語で「リロナイ」といい、これが「キコナイ」に転かしたものであろうといわれている。「リロナイ」とは、「リリ・オ・ナイ」(海水の差し入る川)という意で、この沿岸は干満の差が大きく、満潮時には海水が逆流するので、こう名づけられたという。
(「北海道駅名の起源(昭和48年版)」日本国有鉄道北海道総局 p.16 より引用)
ふーむ。これは永田地名解を参考に書かれたものだと思いますが、rir-o-nay で「潮・多くある・沢」と読み解けますね。駅名の起源にある「海水の差し入る川」という表現のほうが、よりニュアンスを正確に表しているような気がします。面白いのが、上原熊次郎の解も永田地名解も r が k に転訛したという点で同じであることと、どちらも「上る川」と読み解けるところですね。つまり、両者は本質的に同じことを意味していた可能性もありそうです。
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