(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
鶉(うずら)
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
「厚沢部川」の北支流に「鶉川」という川があります。国道 227 号はずっと厚沢部川沿いを通ってきましたが、上流部は鶉川沿いを通ります。鶉川は、中流部で「小鶉川」と合流しています。鶉川と小鶉川の間に「鶉町」の集落が形成されていて、鶉川の南側には「うずら温泉」もあるようですね。鶉川の上流部には「鶉ダム」もあります。
そろそろ「鶉」という文字がゲシュタルト崩壊を起こしたことと思いますので、本題に行きましょう。
「東西蝦夷山川地理取調図」には「ウツラ」という川が記されています。但し、「ウツラ」と記された位置は現在の「当路橋」のあたりで、該当する川は鶉川ではなく「館川」です。逆に、鶉川と思しき川に「館」と記されています。位置認識の混同があったようです。
「竹四郎廻浦日記」には次のように記されていました。
扨此処より本川すじの奥を見るに、両山相蹙て其沢目見えがたし。凡十丁も此処より奥に入る時は左りの方に小沢有。是を ウツラと云。人家十七八軒も有也。向て右の方金堀穴、メノコシ等云字有と。又左りの方に行や此辺土地余程開け畑多く、人家も沢山有るよし。惣名を館と云と。むかし古城が有しに依て号るとかや。「蹙」は「せまる」と読むのだそうです(へぇ)。……よく見たら「顰蹙」の「蹙」じゃ無いですか!
位置関係の問題があるので、若干長めに引用してみましたが、廻浦日記での位置認識は正しそうな感じですね。
これだけだと地名の由来がさっぱりわからないのですが、「角川──」(略──)には次のように記されていました。
地名の由来は,アイヌ語で川が横から注ぐ低い所という意のウツラによるとも,脇から流れる川,横川の意のウツナイによるともいう(アイヌ語地名解)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.180 より引用)
なるほど、ut-ra で「肋骨・低い」と考えたのでしょうか。あるいは ut-nay で「肋・沢」が転訛したと考えたのでしょうか。永田地名解にも「ウッ ナイ」という記載があったので、永田っちは ut-nay が転訛したと考えたようですね。空知の上砂川町にも「鶉」という地名があります(函館本線の上砂川支線に同名の駅がありました)。こちらは福井県鶉村(現在の福井市内)からやってきた開拓民にちなむとのことで、直接アイヌ語との関係は認められない地名です。
木間内(きまない)
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
厚沢部町鶉町から鶉川を東に遡ったところに位置する集落の名前です。早速ですが更科さんの「アイヌ語地名解」を見てみましょう。木間内(きまない)
厚沢部町の水田地帯、キ・オマ・ナイ(茅原の川)の訛ったものと思う。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.20 より引用)
さすが更科さん。ふんわりした感じの地名解は今日も健在です。続いて「角川──」(略──)を見ておきましょうか。
地名の由来は, アイヌ語の村の奥にある川という意のキマクナイによるという(アイヌ語地名解)。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.471 より引用)
ふーむ。「ナイ」は nay と考えて良さそうですが、その前の解釈が若干ブレてますね。どちらが適切だろう……と考えてみたのですが、どちらでもなく(ぉぃ)kim-oma-nay という可能性は無いでしょうか。これだと「山・そこに入る・沢」と考えられそうです。となると、どの川を指して kim-oma-nay と呼んだのか、という疑問が出て来るわけですが、これは「鶉川」そのものを指したと考えるしか無いような気がします。国道 227 号は峠下からそのまま中山トンネルで北斗市(旧・大野町)に抜けてしまいますが、鶉川は峠下からさらに北にずーっと伸びています。このことを kim-oma- と呼んだのでは無いかなぁと、後づけで考えてみました(汗)。
古佐内川(こさない──)
(? = 典拠あり、類型未確認)
厚沢部町本町から館町に向かう途中に「五郎助岳」という山があるのですが、その山の東側を南から北に流れて厚沢部川に合流する支流の名前です。「東西蝦夷山川地理取調図」にも「コサナイ」と記されていますね。更科さんの「アイヌ語地名解」に記載がありましたので、早速見てみましょう。
古佐内川(こさないがわ)
厚沢部川の左小川。アイヌ語コサ・ナイの当字で、むぐらの生えている沢の意。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.21 より引用)
へぇ~。本当かなぁ……と思ったのですが、永田地名解にも次のように記されていました。Kosa nai コサ ナイ 葎艸ノ澤 アイヌ此草根ヲ食料トス
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.148 より引用)
この kosa という語彙について確認してみた所、残念ながら知里さんの「植物編」には記載が無いことがわかりました。ただ、田村すず子さんの辞書には次のように記されていました。kosa コサ【名】[植物]「フジ」。☆参考「今はない、昔あった、土地のいいところにだけ生える、紫の花が咲く、れんこん(蓮根)のような直径 3 センチくらいの節のある根を持ち、その根は食べられる、つるはものをしばるのに用いる。」( S ) ☆参考 藤ではない。クズの一種らしい。〔知分類 なし、p.109 oykar クズ(方言ふじ) 〕{E: a kind of arrowroot plant.}
(田村すず子「アイヌ語沙流方言辞典」草風館 p.338 より引用)
これは永田っちの「アイヌ此草根ヲ食料トス」という表現とも一致しますね。「むぐら」は「葎」のことで、「藤」とも「葛」とも違うのですが、まぁその辺は見なかったことに……(ぉぃ)。www.bojan.net
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