2017年4月8日土曜日

北海道のアイヌ語地名 (430) 「イヌヌシナイ川・突田川・土津田川」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

イヌヌシナイ川

inun-us-nay
漁のために滞在する・いつもする・沢
漁季だけ寝泊まりする小屋・多くある・沢
(典拠あり、類型あり)
メムナイ川の南を流れる川の名前です。「東西蝦夷山川地理取調図」や「東蝦夷日誌」にも「イヌヽシナイ」と記録されているので、昔からの名前がそのまま伝わっているようですね。

永田地名解には次のように記されていました。

Innuush nai, =Inun ush nai  イヌ ヌㇱュ ナイ  漁獵小屋アル川
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.171 より引用)
ああなるほど。知里さんの「小辞典」には、inun は「漁のために水辺に出向いて滞在する」とありますが(動詞)、「川或は海の岸に立てて漁季だけ寝泊まりする小屋」を意味する inun-chiseinun と略す用法もあったように見受けられます(名詞)。永田地名解は後者の用法で解釈したようですね。

ただ、inun-us-nay であれば、どちらの解釈もおかしくなさそうに思えます。inun-us-nay で「漁のために滞在する・いつもする・沢」と解釈できますし、あるいは永田地名解のように「漁季だけ寝泊まりする小屋・多くある・沢」とも読み解けそうです。

で、結局どっちなんだろう……という話になるのですが、まぁ、どっちでもいいんじゃないでしょうか(汗)。

突田川(とった──?)

penke-totta
川上の・袋
(典拠あり、類型あり)
イヌヌシナイ川の南側を流れる川の名前です。「東蝦夷日誌」には「ベンゲトツタ」という名前の「左小川」が記録されています。「東西蝦夷山川地理取調図」では「ヘンケトツタ」ですね。そう言えば「チキンタツタ」って美味しいですよね(関係ない)。

永田地名解には次のように記されていました(テンプレ化?)。

Penke totta  ペンケ トッタ  上ノ嚢川 「トツタ」ハ蒲ニテ作リタル大ナル嚢ナリ 川ノ状似ニ名ク
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.171 より引用)
「トッタ」と言えば、「エサオマントッタベツ岳」だったり「戸蔦別川」だったりが思い出されるのですが、totta という語について、知里さんの小辞典には次のように記されていました。

totta とッタ はこ。→suyop.
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」北海道出版企画センター p.133 より引用)
あれ、「箱」と「袋」では随分と違うなぁ……と思ったのですが、他ならぬ永田さんが「戸蔦別」の解で「箱川」と記していました。あれれ?

田村すず子さんの「アイヌ語沙流方言辞典」では、totta は「大袋」を意味するとあります。また服部四郎さんの「アイヌ語方言辞典」で「箱」を意味する語彙を確認した所、suwópsuyóp などの記録があり、「戸蔦別川」に近い帯広でも supóp あるいは hakó と記録されていました。どうやら totta を「箱」と解釈するほうが限定的な印象を受けますね。

ということで「突田川」ですが、penke-totta で「川上の・袋」と考えて良さそうな感じです。penke-totta-nay-nay が略されたのかもしれませんね。

土津田川(どつた──?)

panke-totta
川下の・袋
(典拠あり、類型あり)
突田川の南側を流れる川の名前です。「東蝦夷日誌」には「トツタ」という名前の「左小川」が記録されています。「東西蝦夷山川地理取調図」では「ハンケトツタ」ですね。そう言えば「クォーターパウンダー」って販売終了なんでしたっけ(全然関係ない)。

永田地名解には次のように記されていました(テンプレ化したね)。

Panke totta  パンケ トッタ  上ノ嚢川
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.171 より引用)
ということで、「土津田川」は panke-totta で「川下の・袋」と考えて良さそうですね。「突田」と「土津田」、ややこしい名前を揃えてしまったように思えて仕方がないのですが、字が違うのでおk,ということなんでしょうか。

石山川(いしやま──)

イヌヌシナイ川と突田川の間で長万部川に合流する右支流の名前です(イヌヌシナイ川や突田川とは反対側ですね)。一見すると和名にしか見えないのですが、「北海道測量舎五万分一地形図 胆振国」を見てみると、現在の「石山川」のところに「ルプ子シマナイ」と書いてある……ように見えます。現在の「長有沢川」のところに「ルプ子シマナイ」と書いてあります。

「ルプ子シマナイ」は rupne-suma-nay で「大きくある・石・沢」と考えられそうです。現在の「石山川」という名前は「ルプ子シマナイ」の意訳だった可能性もありそうですね(ちょっと位置がズレてしまっていますが)。

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