2017年4月1日土曜日

北海道のアイヌ語地名 (428) 「蕨岱・トマムナイ川・知来」

やあ皆さん、アイヌ語の森へ、ようこそ。
(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)

蕨岱(わらびたい)

warumpe-hur?
ワラビ・丘
tuwa-us-i?
ワラビ・多くある・ところ
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
長万部町北部の地名です。JR 函館本線に「蕨岱駅」がありましたが、先日のダイヤ改正で残念ながら廃止されてしまいました。

ということで、今回も「北海道駅名の起源」から。

  蕨 岱(わらびたい)
所在地 (胆振国) 山越郡長万部町
開 駅 明治37年10月15日(北海道鉄道)
起 源 アイヌ語の「ワルンピ・フル」(ワラビの丘)からとったもので、むかしこの付近一帯にワラビが繁茂していたといわれる。
(「北海道駅名の起源(昭和48年版)」日本国有鉄道北海道総局 p.27 より引用)
ふーむ。warumpe-hur で「ワラビ・丘」と言うことでしょうか。どうやら「ワラビ」は和語由来っぽい感じですね。

東蝦夷日誌には次のように記されていました。

蕨臺(ワラビダイ)〔蕨岱〕(わらびたい)(夷言トハウシ、人家あり)畑有、甜瓜(マクワウリ)を作る。此所の名産とす。
松浦武四郎・著、吉田常吉・編「新版 蝦夷日誌(上)」時事通信社 p.40 より引用)
「甜瓜」って何だっけ……と思ったのですが、要するに「瓜」のことだと考えれば良いようです。実はメロンの一種らしいですね。

閑話休題(それはさておき)。東蝦夷日誌には「夷言トハウシ」とあるのですが、これは tuwa-us-i で「ワラビ・多くある・ところ」と解釈できます。となるとやはり「ワルンピ」は和語かな、とも思えるのですが、知里さんの「植物編」には、次のようにありました。

§431. ワラビ Pteridium aquilinum Kuhn
(1)warumpe (wa-rúm-pe) 「ワるンペ」[<日本語“わらび”]新葉のまだ開かぬもの《幌別》
(2)Warambi 『ワラムビ』《B》《A 沙流・千歳》
(3)tuwa (tu-wá)「ト゚わ」新葉《長萬部,様似,本別,名寄,近文》《A 十勝・石狩上川・天鹽》
(4)chepmakina (chép-ma-ki-na)「ちェㇷ゚マキナ」新葉 《美幌,屈斜路》
注 1.──屈斜路で一老人が['tʃeç-ma-ki-na]と發音するのを聞いた。コタン生物記(p. 51)に「チィフマキナ」とあるのわその聞きちがいであろう。尚,藻汐草にわ「セプマキナ」とある。
(5)chikax-soroma (chi-káx-so-ro-ma)「チかㇵ・ソロマ」[chikáx(<chikáp 鳥)soroma(クサソテツ)]新葉《白浦》
注 2.──なぜ“鳥のクサソテツ”とゆうか參考の部で説明する。
(知里真志保「知里真志保著作集 別巻 I『分類アイヌ語辞典 植物編』」平凡社 p.243 より引用)
どうやら tuwa という在来の語彙があったところに、和語から warumpe あるいは Warambi という語彙が流入してきたような感じでしょうか。なぜ「鳥のクサソテツ」と言うのかは、「クサソテツの葉に似て食用にならなかったからそう名ずけたのでわなかろうか」と記されていました。どうやら昔の樺太ではワラビを食する習慣がなかったみたいですね。

トマムナイ川

tomam-nay
湿地・沢
(典拠あり、類型あり)
蕨岱駅の近くを流れる、知来川の西支流です。昔は「苫無内」という字が当てられた地名もあったみたいですね。この川の上流部を地形図で見てみると、謎の盆地があることに気付かされます(わざわざ等高線にも補助線が入っていますね)。

地名解ですが、やはり tomam-nay で「湿地・沢」なのでしょうね。上流部の盆地が tomam と認識されていたのだろうなぁ、と思われます。

知来(ちらい)

chiray-ot-i
イトウ・群在する・もの(川)
(典拠あり、類型多数)
長万部川を河口から遡ると、二股駅の北側で「長万部川」と「知来川」の二手に分かれています。戦前の地形図では「二股川」と「知来川」だったのですが、現在は「二股川」ではなく「長万部川」になっています。かつての二股川のほうが本流扱いのようですね。

知来は、長万部川が二手に分かれたあたりの北側に位置する地名です。おそらく「知来川」の名前が先にあって、そこから来た地名なのでしょうね。

東蝦夷日誌には「チライ」という名前で知来川と思しき川が記録されています。東西蝦夷山川地理取調図には「チライヲツ」という川が記されています(他の支流との位置関係が少々おかしいですが、単に左右を間違えただけにも見えます)。

おおよそ意味の想像がつく川名ですが、永田地名解も見ておきましょうか。

Chirai ochi  チライ オチ  イト魚居ル處
永田方正北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.171 より引用)
これは chiray-ot-i で「イトウ・群在する・もの(川)」と言うことなんでしょうね。上流部に温泉のある川は魚が寄り付かないことも多いのですが、知来川の上流には温泉は無さそうなので、魚の多い川なのだろうなぁと思います。

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