(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
来馬川(らいば──)
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
朱太川上流部の支流の名前です。来馬川は太平洋から 500 m ほどのところを流れていますが、なぜか日本海に注いでいます。日本で最も太平洋に近い日本海側?でしょうか。戊午日誌「東部作発呂留宇知之誌」に、次のような記載がありました。
扨其坂に懸る哉、右の方峨々たる絶壁にして、左りの方谷川に添て行こと凡七八丁峠へ上り、凡半里も下る哉ライバ小休所、過て又平地まゝ行キムクシライバ、是より又坂に上る。
(松浦武四郎・著 秋葉実・解読「戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 上」北海道出版企画センター p.37 より引用)
これは「静狩峠」のことを記したもののようですね。現在は静狩峠と礼文華峠の間を国道 37 号が通っていますが、この区間で国道 37 号が並走する川が「来馬川」です。東西蝦夷山川地理取調図では、朱太川の支流として「ライハ」という川があり、それとは別に(朱太川の支流として)「マタクシライハ」や「キンクシライハ」という川があるように記されています。実際には来馬川にいくつか支流があるのですが、東西蝦夷山川地理取調図からは「ライハ」の支流の存在を見ることができません。
続いて、永田地名解には次のように記されていました。
Rai pa ライパ 死人ヲ見付ル處 幌別郡ニ同名同義ノ地アリえっ……と思ったのですが、確かに「見つける」という意味の pa という他動詞があるようでした。まだ続きがありました。
Kim un kush rai pa キㇺ ウン クㇱュ ライパ 山手ヲ流ルライパ川 旅人ノ溺死ヲ見付ケタル爲ニ番人ヲ置キシ處
(永田方正「北海道蝦夷語地名解」国書刊行会 p.123 より引用)
なんか、すごくもっともそうなストーリーが取ってつけられていますが……(汗)。調査を続けましょう。ロックな語り口と一文の長さに定評のある更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」には、次のようにありました。
この川は地図で見ると、太平洋岸までわずか、半キロほどより離れていないのに、近い太平洋に出ることをきらって、遠く西に流れて朱太川にそそぎ、黒松内を通りほとんど北海道を横断し、北に折れて遥かな樽岸で日本海にそそぐという、ひどくつむじまがりの川である。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.56 より引用)
これはまた、なんとも詩的な文章ですね……。まだ続きがありまして、古川になって水が流れずにいて、出水のときに少し水が通るところを、ライ・ぺッ(死んだ川)と呼んでいるが、来馬そのままでは意味がわからない。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.56 より引用)
そうですよね。登別市にも同名の川ある。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.56 より引用)
そうアルか。ということで、続いて山田秀三さんの「北海道の地名」を見てみます。永田地名解が,それについて「ライ・パ(死者を発見する所)」と変な訳をしたので,不祥の名のように思われて来たが,本当の意味は「ライ・パ。(流れが)死んでいる・川口」の意。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.394 より引用)※ 原文ママ
この文章は、実は登別の「来馬」についてのものですが、黒松内の「来馬川」についてもそれなりに参考になるかと思います。ちなみに引用文中の「ライ・パ。」は、もしかしたら「ライ・パㇿ」の誤植かもしれません。
黒松内の「来馬川」について、更科さんは ray を「流れが涸れている」と考えましたが、どちらかと言えば山田さんの「流れが死んでいる(ように遅い)」と考えたほうが自然に思えます。ray-pet であれば「流れが死んだように遅い・川」ですが、「ライハ」という記録の多さからは ray-paro で「流れが死んだように遅い・口(河口)」だった可能性も考えられそうですね。
アイヌの伝承?のひとつに「アフンルパㇽ」というものがあります。逐語訳では「入る・道・口」なのですが、「死者の住む国への入り口」を意味します。ray-paro を「死者・口」と考えたならば、若干意味が似て来るような気もしてきますね。
幌加朱太川(ほろかしゅぶと──)
(典拠あり、類型あり)
朱太川の支流で、道央道の西側を流れています。幌加朱太川の上流部では南西から北東に向かって流れているので、東から西に流れている朱太川から見ると「逆向きに流れている」とも言えそうですね。もうバレバレですが、horka-{supki-putu} で「逆向きの・{朱太川}」と考えていいのかな、と思います。
「朱太川」については北海道のアイヌ語地名 (51) 「朱太川・寿都・弁慶岬・本目」もどうぞ。
重別川(おもんべ──?)
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
重別川は、朱太川の支流である幌加朱太川の支流です(ややこしい)。読み方がわからなかったのですが、「北海道地名誌」に次のように記されていました。重別川(おもんべがわ) 朱太川上流の左支流。アイヌ語「オㇺ・ウン・ペッ」で,つまっている川の意と思う。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.174 より引用)
あ、更科さん(だと思う)が地名解まで書いてくれていますが、これについては全く同感です。o-mu-un-pet で「河口・塞がっている・そうである・川」あるいは o-mu-un-pe で「河口・塞がっている・そうである・もの」あたりかなぁ、と思います。www.bojan.net
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