(この背景地図等データは、国土地理院の地理院地図から配信されたものである)
蘭越(らんこし)
(典拠あり、類型あり)
ニセコ町の西隣りの町の名前です。JR 函館本線の「蘭越駅」もあります。ということで、今回も「北海道駅名の起源」から。蘭 越(らんこし)
所在地 (後志国)磯谷郡蘭越町
開 駅 明治37年10月15日(北海道鉄道)
起 源 アイヌ語の「ランクシ」がなまったもので、ランクシは「ランコ・ウシ」(カツラの多い所)の意。
(「北海道駅名の起源(昭和48年版)」日本国有鉄道北海道総局 p.29 より引用)
はい。ranko-us-i で「桂(の木)・多くある・ところ」と考えて良さそうですね。この「蘭越」という地名の興味深いところは、もともとは蘭越駅近くの小さな川だったものが、たまたま近くに駅ができたおかげで駅名になり、気がつけば町名になってしまったという点でしょうか。
ですので、意外と古い記録には「ランコシ」の文字を目にすることがそれほど多くありません。なお、明治期の地図には「ランコシナイ」と記されていましたので、元々は ranko-us-nay で「桂(の木)・多くある・沢」だったのかもしれません。
ニトヌプリ
(典拠あり、類型あり)
ニセコアンヌプリの西に位置する山の名前です。山頂は倶知安町と蘭越町の境界上にあります。今回は久しぶりに「北海道地名誌」を見てみましょう。ニトヌプリ山 1,083.0 メートル 倶知安町との境界近くの山。ニトはアイヌ語ではなく, 兎が 2 匹飛びだしたのを見たので,2 兎ヌプリとつけたという。
(NHK 北海道本部・編「北海道地名誌」北海教育評論社 p.177 より引用)
……ほんまかいな(汗)。軽く脱力したところで、我らが「角川──」(略──)を見てみましょう。
にとぬぷり ニトヌプリ
後志(しりべし)地方蘭越町・倶知安(くっちゃん)町・共和町の境界にある山。標高1,083m。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1106 より引用)
ふむふむ。もちろん続きがあります。山名は「アイヌ語小辞典」にはニドム・ヌプリとあり,森のある山の意という。
(「角川日本地名大辞典」編纂委員会・編「角川日本地名大辞典 1 北海道(上巻)」角川書店 p.1106 より引用)
ほうほう。これで「働かない山」などと言われたらどうしようかと思いましたが、思いの外マトモっぽい解で安心しました。nitum-nupuri で「森・山」でしょうか。あるいは nitum-un-nupuri で「森・ある・山」だったのかもしれませんね。ペンケ目国内川(ペンケめくんない──)
(? = 典拠あるが疑問点あり、類型あり)
「ニセコ連峰」の東山(ニセコ火山群)と西山(雷電火山群)は、「白樺山」と「前目国内岳」の間の「新見峠」で区切られています。新見峠の南側には「新見温泉」というところがあり、新見温泉の東側を「ペンケ目国内川」が流れています。ちなみに「新見温泉」の名前の由来は、温泉を発見した新見直太郎さんに由来するのだとか。では、今回は永田地名解を見てみましょうか。
Penke mekun nai ペンケ メクン ナイ 上ノ暗川 「メクン」ハ「暗キ」ノ義ふーむ。mekun に「暗い」なんて意味があったかなぁ、という疑問が出てくるのですが……。山田秀三さんの「北海道の地名」には、次のように記されていました。
メクンという言葉を他で見たことがないので判断がつかない。松浦図と西蝦夷日誌では,ハンケメクシ,ヘンケメクシである。これから見ると mek-un あるいは mek-ush だったらしいが,そのメク(mek)の意味が分からないし,今までのところ似た言葉を当てる自信もない。後人の研究に待ちたい。
(山田秀三「北海道の地名」草風館 p.461 より引用)
あー、やはりそうなりますよねぇ。一方で、更科源蔵さんの「アイヌ語地名解」には次のようにありました。
目国内岳(めくんないだけ)
野束川水源の山。目国内の語源はマㇰ・ウン・ナイで、山奥にある川という意味である。
(更科源蔵「更科源蔵アイヌ関係著作集〈6〉アイヌ語地名解」みやま書房 p.33 より引用)
あーなるほど。mak-un-nay で「山奥に・入る・沢」と解釈したのですね。これは割と妥当な解に思えます。更科さんの解に概ね異論は無いのですが、知里さんの小辞典を見ていると mek-ka という語彙が見つかりました。これは「物の背すじ」を意味して、転じて「山の尾根」と言った風にも使われたようです。mek-ka は「mek の上」と読み解けますから、mek は「尾根の下」と考えても良さそうな気がします。
地形図を見ていると、「ペンケ目国内川」と「パンケ目国内川」はどちらも深く掘れた谷底を流れています。そのことから、永田地名解にあるとおりの mek-un-nay で「尾根の下・そこに入る・川」とも読めたりしないかな? と考えてみました。
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